大腿骨 Femur
大腿骨は、人体で最も長く強靭な管状骨であり、解剖学的に重要な特徴と臨床的意義を持ちます(Gray and Williams, 2000; Netter, 2018):

J0003 (大人の新鮮な右大腿骨の近位部、前方からの図)

J0004 (大人の新鮮な右大腿骨の近位部:前方からの後半部の前頭断図)

J0006 (大人の浸出された右大腿骨の近位端:前頭断面)

J0007 (成人の右大腿骨:腹面からの透視図)

J0010 (成人の浸出された大腿骨の扇型の緻密質)

J0015 (右大腿骨、上端部:前面断図)

J0016 (右大腿骨、下端部:前面断図)

J0228 (右の大腿骨:前方からの図)

J0229 (右の大腿骨:後方からの図)

J0230 (右大腿骨、内側からの図)

J0231 (右大腿骨、遠位端部:前方からの図)

J0232 (右大腿骨、遠位端:下方からの図)

J0233 (右大腿骨、遠位端部:外側からの図)

J0234 (右の大腿部の中央を横切る:上方からの断面図)

J0235 (右の大腿骨、近位端部:前方からの図)

J0236 (右大腿骨、近位端、第三転子(破格):後方からの図)

J0237 (右大腿骨、近位端、筋の起こる所と着く所:後内側からの図)

J0238 (右大腿骨、近位端、筋の起こる所と着く所:前外側からの図)

J0239 (右大腿骨と筋の起こる所と着く所:前方からの図)

J0240 (右大腿骨と筋の起こる所と着く所:後方からの図)

J0279 (大腿骨:10歳の女の子の右下肢の骨の表現で、正面からの図)

J0280 (脛骨:10歳の女の子の右下肢の骨の表現で、正面からの図)

J0281 (腓骨:10歳の女の子の右下肢の骨の表現で、正面からの図)

J0336 (右膝関節:関節の中央をおおよそ通る矢状断)

J0381 (右膝:伸ばされた、腹背方向からのX線像)

J0490 (腰部の筋:腹側図)

J0491 (右の鼡径部の筋膜:腹側からの図)

J0492 (右側の骨盤の筋:内側からの図)

J0493 (右骨盤の筋:外側から遠位の図)
1. 解剖学的特徴
- 構造的特徴:長さは約40-45cmで、成人男性では身長の約4分の1を占め、緻密質が厚く発達し、極めて強い荷重支持能力を持ちます(Moore et al., 2014)。
- 形態学的特徴:前方に軽く凸曲(前弯)しており、この弯曲は直立二足歩行に適応した形態で、体重を効率的に分散させる役割を果たします(Standring, 2021)。
- 近位部解剖:近位端には球状の大腿骨頭があり、その表面の関節軟骨は股関節窩と関節を形成。大腿骨頭の中心部には靭帯窩があり、大腿骨頭靭帯が付着します(Agur and Dalley, 2017)。
- 大腿骨頚:大腿骨頭と大転子の間に位置する細い部分で、骨折リスクの高い部位です。大腿骨頚と大腿骨体は約125度の頚体角を形成し、この角度は加齢や人種により変化します(Drake et al., 2019)。
- 大転子と小転子:大転子は大腿骨近位外側の大きな突起で、中殿筋・小殿筋の付着部。小転子は後内側に位置し、腸腰筋の付着部となります(Sinnatamby, 2011)。
- 骨幹部(体部):円柱状で、後面には粗線(linea aspera)があり、大内転筋など多くの筋肉が付着します。遠位に向かうにつれ三角面に広がります(Standring, 2021)。
- 遠位部:膝関節を形成する内側顆と外側顆があり、前面には膝蓋骨と関節する膝蓋面があります。顆間窩は十字靭帯の付着部位です(Moore et al., 2014)。
2. 臨床的意義
2.1 大腿骨骨折
大腿骨骨折は整形外科領域における重要な疾患であり、発生部位により治療法と予後が大きく異なります(Bucholz et al., 2010):
- 大腿骨頚部骨折:高齢者に最も多く発生する骨折の一つで、特に骨粗鬆症を有する女性に好発します。大腿骨頚部は血流が限られているため、骨折後の骨壊死や偽関節のリスクが高く、Garden分類(I~IV型)により治療方針が決定されます(Cooper et al., 2011; Johnell and Kanis, 2006)。Garden III・IV型のような転位骨折では人工骨頭置換術や全人工股関節置換術が選択されることが多く、早期手術と早期離床が推奨されます。術後1年以内の死亡率は15-30%と高く、入院期間の長期化や寝たきりによる合併症(肺炎、褥瘡、深部静脈血栓症など)のリスクが重大な問題となります(Haentjens et al., 2010)。
- 大腿骨転子部骨折:大腿骨頚部骨折に次いで多い骨折で、大転子と小転子の間に発生します。血流が豊富なため骨癒合は良好ですが、骨折部位が不安定であることが多く、髄外固定(DHS: Dynamic Hip Screw)や髄内釘(γ-nail、PFNA: Proximal Femoral Nail Antirotation等)による内固定が一般的です(Evans, 1949; Baumgaertner et al., 1995)。高齢者では術前の全身状態評価と周術期管理が予後を左右します。
- 大腿骨骨幹部骨折:多くは高エネルギー外傷(交通事故、転落など)により発生し、若年者に多く見られます。治療には髄内釘固定が標準的で、早期の骨癒合と機能回復が期待できます(Winquist et al., 1984)。ただし、脂肪塞栓症候群や区画症候群といった重篤な合併症のリスクがあり、慎重な周術期管理が必要です(Robinson, 2001)。
- 大腿骨遠位部骨折:膝関節面に近い骨折で、関節内骨折を伴うことが多く、解剖学的整復と強固な内固定が必要です。Locked plating systemやレトログレード髄内釘などの手術法が選択されます(Zlowodzki et al., 2006)。関節面の不整が残ると、将来的に変形性膝関節症を引き起こすリスクがあります。
2.2 変形性関節症
- 変形性股関節症(Hip Osteoarthritis):大腿骨頭と寛骨臼の関節軟骨が摩耗し、疼痛や可動域制限をきたす疾患です。日本では臼蓋形成不全に起因する二次性股関節症が多く、欧米では一次性(原因不明)が多いという疫学的特徴があります(Nakamura et al., 2007)。進行例では全人工股関節置換術(THA: Total Hip Arthroplasty)が有効で、疼痛の軽減と機能改善が期待できます(Harris, 1969; Learmonth et al., 2007)。