橈骨神経

橈骨神経は後神経束から起こります(通常はC5~Th1)。腋窩の中で腋窩動脈の背面を通り、上腕深動脈と共に上腕骨の後面に至ります。橈骨神経溝の中で上腕骨の外側縁近くを回り、外側筋間中隔を貫いて肘関節上で屈側に出ます。関節遠位で知覚性の浅枝と運動性の深枝に分かれます。前者は前腕で腕橈骨筋を誘導する筋として使用し、後者は回外筋に入り螺旋状に曲がって前腕の伸側を下降します。橈骨神経は腕の全ての伸筋を支配し、3つの皮枝である下外側上腕皮神経、後上腕皮神経、および後前腕皮神経は腕の伸側の皮膚(三角筋部を除く)と手の皮膚(尺側縁、第4、5指、および第2、3指の末節を除く)を支配します。肘関節部で浅枝と深枝に分かれます。上腕三頭筋と肘筋への神経枝は、「橈骨神経管」の入口前と入口部で、既に橈骨神経から分岐していることに注意してください。

橈骨神経の支配する筋

1.上腕三頭筋(A04_0392(上腕三頭筋)Triceps brachii muscle☆) 2.腕橈骨筋(A04_0412(腕橈骨筋)Brachioradialis muscle☆) 3.肘筋(A04_0396(肘筋)Anconeus muscle☆)

4.肘関節筋(A04_0397(肘関節筋)) 5.回外筋(A04_0421(回外筋)Supinator muscle☆) 6.指伸筋(A04_0415(総指伸筋)Extensor digitorum muscle☆) 7.長橈側手根伸筋(A04_0413(長橈側手根伸筋)Extensor carpi radialis longus muscle☆) 8.短橈側手根伸筋(A04_0414(短橈側手根伸筋)Extensor carpi radialis brevis muscle☆) 9.尺側手根伸筋(A04_0418(尺側手根伸筋)Extensor carpi ulnaris muscle☆) 10.長母指伸筋(A04_0424(長母指伸筋)Extensor pollicis longus muscle☆) 11.短母指伸筋(A04_0423(短母指伸筋(手の))Extensor pollicis brevis muscle☆) 12.小指伸筋(A04_0417(小指伸筋;固有小指伸筋)) 13.示指伸筋(A04_0425(示指伸筋)Extensor indicis muscle☆) 14.長母指外転筋(A04_0422(長母指外転筋)Abductor pollicis longus muscle☆)

日本人のからだ(千葉正司 2000)によると

橈骨神経は、腕神経叢の後神経束の延長として発生し、その分節構成は一般的にC5-Th1です。Th1を欠いている場合もある(図59表72) (8.3%,川崎,1940 a; 6.3%, 式場,1947; 4.3%,白松,1951 b; 2.2%,宮薗,1958)。また、腕神経叢の内側神経束またはその枝からの交通枝が橈骨神経に合流することもあります(0.8%,荒川,1958 a; 40%,相澤ら,1994, 1995)。

橈骨神経は、上腕動脈の背側面に沿って大円筋と広背筋の停止腱の前面を下行し、上腕三頭筋長頭の前外側で外側頭と内側頭の間に進入し、橈骨神経溝に沿ってらせん状に走ります。上腕中央の外側部では、橈骨神経と皮膚との距離が最も短いとされています(河西・相山,1972; 鈴木,1988)。橈骨神経は、浅肩甲下動脈(山田,1967)の経路とも関連し、後上腕回旋動脈と肩甲回旋動脈に対し、前者の背・腹側、後者の内・外側の4経路を走行することができます(Adachi, 1928 a; 福山,1938; 森,1941 b; 浦,1962; 千葉,1986; 相澤ら,1995)。橈骨神経は、腋窩動脈によって貫通されることもあると報告されています(Adachi, 1928 a)。また、一時的に腋窩動脈の腹側を通ることもあります(森,1941 b)。

後上腕皮神経は、橈骨神経から上腕三頭筋の長頭筋枝と共同幹を形成しながら、または単独で起始し、細い動脈を伴行して上腕の背側にまわり、上腕中央位の後面の皮膚や上腕筋膜に分布します(Kasai et al., 1982; 角田,1982; 河西ら,1989)。後上腕皮神経の欠如例は見られないとの報告があります(河西ら. 1989)。また、この皮神経は、通常の皮神経と異なり、肋間上腕神経の後枝、内側上腕皮神経の深層に重複して分布し、主に筋膜に分布します。なお、堀口ら(1992 a)は、後上腕皮神経の枝が、背上顆筋M. dorsoepitrochlearisの遺残と思われる筋束に分布する2例を報告しています。

上腕三頭筋の各筋腹には、橈骨神経から単独で、または共同幹を形成した後に、それぞれ固有の筋枝が分布し、肘筋には、内側頭筋枝と外側頭筋枝の共同幹から分かれた筋枝が分布しています(Hirasawa, 1931; 淵野,1960 a)。

河西(1955)によると、下外側上腕皮神経と後前腕皮神経は、橈骨神経本幹からそれぞれ独立して分枝することが多い(64.9%)で、両皮神経の共同幹の形成は少ない(35.1%)とのことです。また、後前腕皮神経の経路には、外側上腕筋間中隔で、上腕三頭筋外側頭と腕橈骨筋との間を通る型(63.2%)、筋間中隔の手前で外側頭を貫く型(15.8%)、上記2つの経路を持つ型(21.1%)が区別できると述べています(図78)。下外側上腕皮神経は上腕下部の外側面の皮下に、後前腕皮神経は前腕後面の皮下に分布し、後者の約半数は手背まで分布すると述べています(内藤,1934 a,b)。上腕三頭筋の筋枝は時折、筋を貫通する皮枝を分枝することがあります(図79)(Hirasawa, 1931; 河西,1955; 熊木,1980; 山田・萬年,1985; 堀口,1986)。このような貫通枝には、外側頭あるいは長頭を貫く場合と、外側頭と長頭との間を通る場合が区別できます(河西,1955; Kasai, 1963)。

橈骨神経の本幹は、外側上腕筋間中隔と上腕骨の間を通り(河西,1955)、上腕筋と前腕伸筋群(腕橈骨筋、長短の橈側手根伸筋)との間に形成された深い溝を下行します。橈骨神経は、上腕筋の外側部、腕橈骨筋、長橈側手根伸筋に筋枝を与えた後、肘窩外側で浅枝と深枝に分かれます。橈骨神経の上腕筋枝は、高頻度で出現します(30.3%,淵野,1960 a; 86.0%,町田,1961 a)。

橈骨神経の浅枝は、腕橈骨筋を覆いながら下行し、前腕下位の高さで、この腱の背側あるいは腱を貫通して手背に向かいます(Hirasawa, 1931)。時折、浅枝の欠如も見られます。背側浅前腕動脈がまれに出現した例では、浅枝はこの動脈と伴行しています(Adachi, 1928 a; 井上,1934; 千葉,1984 c)。

橈骨神経の深枝は、短橈側手根伸筋に筋枝を分枝した後、回外筋を貫通し、後骨間動脈に伴行して伸筋群の浅層と深層の間を下行し、伸筋群に筋枝を与えます(Hirasawa, 1931; 井上,1934)。深枝は、浅層の各伸筋に対しては共通枝より単独枝を、また後骨間神経は長母指外転筋と短母指伸筋、長母指伸筋と示指伸筋にそれぞれ共通枝を与えることが多いと述べられています(淵野,1960c)。吉野・堀口(1992)は、示指伸筋の神経支配を5型に分け、この筋が背腹両面から筋枝を受けることが多いと報告しています。Numata and Horiguchi (1994)は、橈骨神経深枝による回外筋の支配域を3部に分け、神経より浅層(背側)の筋束が二次的に発達し、回外筋の神経貫通現象が発生することを明らかにしました。

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図59 腕神経叢の形態(Hirasawa, 1931改変)

図59 腕神経叢の形態

括弧 ( ) 内には、Hirasawa (1931)の200例中の出現頻度が示されています。I型は正常型を示し、各型はさらに亜型に細分されます。背側の神経(点描)には、(C8) Th1が参加しない場合もあります(V, HI型)。腹側の神経が索状に合体する(X型)や、背腹の神経間に連絡がある(VIII, XIII型)も認められます。 C4-Th1は第4頚神経-第1胸神経の前枝、Axは腋窩神経、Camは内側前腕皮神経、Cbmは内側上腕皮神経、Flは外側神経束、Fmは内側神経束、Fpは後神経束、Mは正中神経、Mcは筋皮神経、Rは橈骨神経、Uは尺骨神経を表します。