上前腸骨棘 Spina iliaca anterior superior
上前腸骨棘は、骨盤を構成する重要な解剖学的構造であり、整形外科学、産科学、スポーツ医学、理学療法における診断・治療の基準点として極めて重要な役割を果たします(Gray, 2020; Moore et al., 2018; Standring, 2021)。

J0212 (右の寛骨:外側からの図)

J0213 (右の寛骨:内側からの図)

J0214 (右の寛骨:前下からの図)

J0325 (右の骨盤の靱帯:前面から少し上からの図)

J0435 (腹筋:右側前方からの図)

J0436 (腹筋、正面からの図)

J0438 (腹筋(第2層):腹面図)

J0440 (腹直筋:腹面図)

J0443 (腹筋(第3層):腹面図)

J0489 (右側の鼡径部の筋を鼡径靱帯の直下で切断した図)

J0490 (腰部の筋:腹側図)

J0491 (右の鼡径部の筋膜:腹側からの図)

J0494 (右大腿の筋膜:腹側からの図)

J0495 (右大腿の筋:腹側からの図)
J0496 (右大腿の筋:腹側からの図)

J0497 (右大腿の筋:腹側からの図)

J0498 (右大腿の筋:腹側図)

J0499 (右大腿の筋:腹側図)

J0500 (右殿部の筋:外側からの図)

J0501 (右側の殿部の筋:外側からの図)

J0505 (右大腿の筋:背面図)

J0506 (右大腿の筋:背面図)

J0628 (右大腿静脈、腹側からの図)
1. 解剖学的特徴
1.1 位置と形態
- 骨盤の前外側に位置する突出した骨性ランドマークで、腸骨稜(crista iliaca)の前端に位置しています(Standring, 2021)。
- 腸骨の前縁(margo anterior)と外側縁(margo lateralis)の接合部に形成される明確な隆起構造で、腸骨翼(ala ossis ilii)から前方へ突出しています(Drake et al., 2019)。
- 体表からの触診が容易で、骨盤の位置を確認する際の重要な指標となります。特に骨盤の傾斜や回旋の評価において不可欠なランドマークです(Netter, 2019; Palastanga and Soames, 2019)。
- 成人では皮下脂肪層の直下に位置し、腹部下部の側方に約2.5cm大の硬い突起として触知できます。痩せ型の個体ではより明瞭に触知でき、肥満体型では触診がやや困難になることがあります(Agur and Dalley, 2017)。
1.2 発生学的特徴
- 上前腸骨棘は、腸骨の骨化中心から発生し、思春期に二次骨化中心が出現します。この二次骨化中心は16〜18歳頃に腸骨本体と癒合しますが、癒合前の時期には裂離骨折が好発します(Micheli and Kocher, 2006)。
- 骨化の完成は20歳前後とされ、この時期までは激しいスポーツ活動による裂離損傷のリスクが高まります(Brukner and Khan, 2017)。
1.3 解剖学的変異
- 上前腸骨棘の形態には個体差があり、突出の程度、大きさ、形状に変異が認められます。最近の研究では、3Dイメージング技術を用いた形態学的分析により、これらの変異が外科的アプローチに影響を与える可能性が指摘されています(Zhang et al., 2023)。
- 性差も認められ、一般的に男性の方が女性よりも突出が顕著である傾向があります(Alves et al., 2022)。
2. 筋肉の付着部
2.1 縫工筋(m. sartorius)
- 起始部:上前腸骨棘の前面から起始し、大腿前面を斜めに内下方へ走行して脛骨粗面の内側に停止する人体最長の筋肉(約50cm)です(Platzer, 2018; Neumann, 2017)。
- 機能:股関節の屈曲、外転、外旋、および膝関節の屈曲と内旋に関与します。「仕立て屋の筋肉(tailor's muscle)」とも呼ばれ、あぐらをかく姿勢で活動します(Palastanga and Soames, 2019)。
- 神経支配:大腿神経(L2-L3)により支配されます(Moore et al., 2018)。