尺骨神経

尺骨神経は、首から手にかけて走る神経で、腕神経叢の一部です。この神経は上腕の内側後部を下り、肘頭の内(尺)側に達した後、前面に近づきます。尺側手根筋と深指屈筋(尺骨半)への筋枝を出した後、前腕を下りながら手背尺側半の皮膚に分布する背側指神経および手掌尺側半の皮膚に分布する皮枝を出します。

手掌部に到達した尺骨神経の本幹は、短掌筋、小指外転筋、短小指屈筋、小指対立筋、尺側の虫様筋、短母指屈筋の深頭、母指内転筋、および骨間筋への筋枝を出します。その後、総掌側指神経とその末梢側のつづきである固有掌側指神経になり、小指および薬指の表面を覆う皮膚に分布します。尺骨神経は上肢の主要な神経の一つであり、腕と手の特定の部分の感覚と運動を制御しています。

尺骨神経の支配する筋

1.深指屈筋(A04_0409(深指屈筋)Flexor digitorum profundus muscle☆)

2.尺側手根屈筋(A04_0403(尺側手根屈筋)Flexor carpi ulnaris muscle)

3.短母指屈筋の深頭(A04_0430(深頭(短母指屈筋の)))

4.母指内転筋(A04_0432(母指内転筋(手の))Adductor pollicis muscle☆)

5.短掌筋(A04_0426(短掌筋))

6.小指外転筋(A04_0435(小指外転筋(手の))Abductor digiti minimi muscle of hand☆)

7.短小指屈筋(A04_0436(短小指屈筋(手の))Flexor digiti minimi brevis muscle of hand☆)

8.小指対立筋(A04_0437(小指対立筋(手の))Opponens digiti minimi muscle of hand☆)

9.虫様筋(A04_0438(虫様筋[手の]))

10.背側骨間筋(A04_0439(背側骨間筋(手の))Dorsal interosseous muscles of hand☆)

11.掌側骨間筋(A04_0440(掌側骨間筋)Palmar interosseous muscles☆)

日本人のからだ(千葉正司 2000)によると

尺骨神経は通常、正中神経ワナの内側根の基部で、正中神経から分岐した内側神経束に外側神経束からの一部線維が合流して形成されます。神経束が腹側(時折、背側も含まれる)に合一した神経幹は、内側前腕皮神経(内側上腕皮神経)との共同幹から分岐することもあります。尺骨神経には、後神経束または橈骨神経からの枝も参加することがあります。尺骨神経の分節構成としては、C8とTh1が従来挙げられていましたが、正中神経ワナの外側根に由来するC7成分が、内側根の深層またはこれを貫通して尺骨神経に参加するため、その分節構成はC7-Th1が一般的と思われます。

尺骨神経は、上腕内側面を下行し、上腕の中位の少し下方で、内側上腕筋間中隔の後面に達した後、上腕三頭筋内側頭の前面を下行します。そして、上腕骨内側上顆後面の尺骨神経溝に接し、尺側手根屈筋の上腕頭に覆われて前腕に向かいます。尺骨神経は通常、正中神経と同じように、上腕領域では筋枝を出さないと言われています。また、肘関節への関節枝は、尺骨神経溝を走行中に分枝すると言われています。

尺骨神経は、尺側手根屈筋に覆われ、同筋の他に、深指屈筋の尺側部にも筋枝を出します。尺骨神経と正中神経は、深指屈筋の腹側で連絡し、深指屈筋内でも筋内吻合を営むことがあります。

尺骨神経は、前腕近位で尺骨動静脈と伴行を始め、前腕中位で前腕下部と手掌尺側半の皮膚と短掌筋に分布する細い掌枝を出します。その枝が欠如する場合には、尺骨神経の手背枝、浅枝がそれを補います。尺骨神経は、前腕の遠位で背側に向かう手背枝を出した後、掌側手根靭帯を貫通して手掌に達し、皮枝である浅枝と筋枝である深枝に分かれます。手根部では、前腕筋膜に発生し豆状骨に停止する破格筋、前腕筋膜に発生する小指外転筋の過剰頭により、尺骨神経と同名血管が腹側から覆われることもあります。浅枝は3本の固有掌側指神経に分かれ、深枝は小指球筋、中手筋、母指球筋の一部を支配しています。