母指内転筋 Musculus adductor pollicis
母指内転筋は手掌深層に位置する内在筋で、母指の内転運動と精密把持動作において中心的役割を果たす筋肉です。以下に解剖学的構造と臨床的意義について詳述します。

J0205 (右の手骨:筋の起こる所と着く所を示す手掌側からの図)

J0206 (右の手骨:および筋の起こる所と着く所を示すの背面からの図)

J0482 (右手掌の筋)

J0484 (右の母指球の深筋)
解剖学的構造
位置と層構造
- 手掌深層に位置し、手掌腱膜、長指屈筋腱、第1および第2虫様筋に覆われています(Standring, 2016)
- 母指球筋群の中で最も深層に位置し、第1背側骨間筋と密接な関係にあります(Netter, 2019)
- 筋肉は手掌の中央部から母指に向かって扇状に広がる形態を示します(Clemente, 2011)
筋頭の構造
母指内転筋は斜頭(caput obliquum)と横頭(caput transversum)の2つの明確に区別される筋頭から構成されます(Palastanga et al., 2012):
- 斜頭(Oblique head):
- 起始部:有頭骨、大菱形骨、小菱形骨の掌側面、有頭骨から放出する靱帯線維束、および第2中手骨底の掌側面(Moore et al., 2014)
- 筋線維の走行:手根骨遠位列から斜め外側に向かって走行し、母指に向かいます(Drake et al., 2015)
- 筋腹の特徴:比較的薄く扁平な筋束で構成され、横頭よりも広範囲に起始します(Agur and Dalley, 2017)
- 横頭(Transverse head):
- 起始部:第3中手骨の掌側面で、その全長の約2/3(遠位部)に広く付着します(Netter, 2019)
- 筋線維の走行:第3中手骨から横方向(橈側方向)に走行し、母指に向かいます(Gilroy et al., 2020)
- 筋腹の特徴:斜頭よりも厚く強力な筋束で、より集束した構造を持ちます(Kaplan, 2018)
- 手掌横弓の形成:横頭は手掌の横弓(transverse arch)の維持に重要な役割を果たします(Kapandji, 2016)
停止部の構造
- 両筋頭の筋線維は集束して強力な総終末腱を形成します(Clemente, 2011)
- この腱は母指中手指節関節の尺側種子骨に付着します(Tubiana et al., 2013)
- さらに母指基節骨底の尺側結節にも付着し、安定した停止構造を形成します(Moore et al., 2014)
- 停止腱の一部は母指の背側腱膜(dorsal aponeurosis)にも線維を送り、長母指伸筋腱と連結します(Landsmeer, 1955)
神経血管支配
神経支配
- 支配神経:尺骨神経の深枝(deep branch of ulnar nerve)(Drake et al., 2015)