茎状突起(尺骨の)Processus styloideus ulnae
尺骨茎状突起は、前腕骨である尺骨の遠位端に位置する重要な解剖学的構造です。以下にその詳細な解剖学的特徴と臨床的意義を示します(Gray et al., 2020; Spinner and Kaplan, 1984):
解剖学的特徴
- 形態:尺骨下端の内側(尺側)から遠位方向に突出する円錐形の骨性突起
- 位置:手関節(遠位橈尺関節と手関節)の尺側に位置し、橈骨茎状突起と対をなす(Standring, 2021)
- 長さ:通常約5-6mm程度突出している
- 構造:緻密骨(皮質骨)で覆われた海綿骨からなる
靭帯付着部
- 尺側側副靱帯(三角線維軟骨複合体の一部)の起始部(Palmer and Werner, 1981)
- 尺骨手根靱帯の付着部
- 屈筋支帯の一部が付着
周囲の重要構造物
- 尺骨神経:茎状突起の背側を通過(Koziej et al., 2018)
- 尺骨動脈:茎状突起の前方を走行
- 関節:三角線維軟骨複合体(TFCC)を介して手根骨と関節を形成(Nakamura et al., 1996)
臨床的意義
- 尺骨茎状突起骨折:
- 転倒時の外力による単独骨折、または橈骨遠位端骨折に合併(Sammer and Chung, 2012)
- 偽関節を形成しやすく、尺側手関節痛の原因となることがある
- 尺骨茎状突起衝突症候群:
- 茎状突起が長い場合に、三角骨や月状骨との衝突により疼痛を生じる(Topper et al., 2017)
- 手関節尺屈時に症状が悪化する特徴がある
- 画像診断上のランドマーク:
- X線画像における手関節評価の重要な指標
- 橈骨茎状突起との位置関係から橈尺関節の状態を評価(Magee, 2013)
この構造は、手関節の安定性維持と適切な運動機能において重要な役割を果たしており、手外科および整形外科領域で臨床的に重要な意義を持つ解剖学的ランドマークです。