鼡径靭帯は、上前腸骨棘と恥骨結節との間に張る靭帯で、前面において体幹と下肢の境界を形成します。外腹斜筋の停止腱膜からなる腱弓が発達したものです。恥骨櫛は恥骨結節のやや後部から後外側に伸びているため、鼡径靭帯は恥骨櫛よりもやや前方に位置しています。鼡径靭帯の一部は内側に分かれ、後方に走り、恥骨櫛内側部に達し、裂孔靭帯と呼ばれるものを形成します。この靭帯は、鼡径管下壁の形成に関与しています。また、浅鼡径輪の外側脚を形成する外腹斜筋腱膜線維が鼡径靭帯内側端に到達した後、上内側に向かって反転し、内腹斜筋の前面に向かって線維を送ります。この靭帯を反転靭帯と呼び、鼡径管内側端でその後壁の形成に関与します。また、恥骨櫛に沿って外側に伸びるものを恥骨櫛靭帯と呼びます。これらは、プーパルの靭帯とも呼ばれています。フランスの外科医、フランソワ・プーパル (1616-1708) は、ルイ14世の侍医で、鼡径靭帯を "Suspenseurs del'-abdomen" と記述しました。プーパル線は、鼡径靭帯の中心と鎖骨とを結ぶ線です。