側頭骨 Os temporale
側頭骨は、頭蓋の底部および側面に位置する大きな不規則形の骨です。解剖学的位置と構造について最新の研究知見を含めて説明します(Gray et al., 2020; Standring, 2023):
1. 解剖学的位置と基本構造
- 頭蓋側壁の中央部と頭蓋底中央の両側部を形成し、脳の側頭葉を保護します。特に中頭蓋窩の前外側部と後頭蓋窩の前側部を構成します(Netter, 2022)。
- 平衡聴覚器(外耳道・中耳・内耳)を保護し、聴覚と平衡感覚の神経機構を収容します。内耳には蝸牛(聴覚)と前庭・三半規管(平衡感覚)が含まれます(Møller, 2020)。
2. 発生学と構成要素
- 発生学的には岩様部(乳突部と錐体)、鼓室部、鱗部の3つの部分から構成され、生後約1年で癒合して単一の骨になります。各部位は異なる骨化様式(膜内骨化と軟骨内骨化)を示します(Sadler, 2022)。
3. 機能的構造
- 外耳孔があり、外耳道と鼓室をつなぎます。外耳道は約2.5cmの長さで、鼓膜へと導きます。臨床的に外耳道炎や耳垢栓塞の好発部位です(Roland and Marple, 2021)。
- 頬骨突起が頬骨に達し、頬骨弓を形成します。この構造は側頭下窩の外側境界となり、咀嚼筋の付着部として重要です(Norton, 2023)。
- 下縁から咬筋が起始し、下顎角に停止して、咀嚼運動の主要な筋の一つとなります。咬筋の緊張は顎関節症の原因となることがあります(Okeson, 2020)。
4. 臨床的に重要な解剖学的特徴
側頭骨には、臨床的にも重要な解剖学的特徴があります(Gulya et al., 2020):
- 鼓室骨裂孔(Huschke孔):外耳道下壁の内側1/3に位置する先天性の孔で、約26%の人に見られます。この孔は顎関節炎の際に感染経路となり得るため、臨床的に重要です(Park et al., 2019)。
- 側頭鱗頭頂突起:側頭骨鱗部の頭頂縁が上方に突出した部分で、約34%の人に見られます。頭蓋形態学的変異として重要で、側頭筋の付着に影響します(Matsumura et al., 2021)。
- 外耳道骨腫:外耳道内に生じる良性の骨瘤で、約1.4%の人に見られます。水泳などの冷水刺激により発生頻度が上昇し、大きくなると伝音性難聴の原因となることがあります(Vasama, 2020)。
- 乳突孔:側頭骨の乳突様突起の後方に位置し、約83.5%の人に存在します。後頭動脈の枝や導出静脈が通過し、臨床的には乳突蜂巣炎の際に重要な構造となります(Keating and Grundfast, 2022)。
- 内頸動脈管:錐体部を通過し、内頸動脈を保護します。この部位の骨折は致命的な出血を引き起こす可能性があります(Sanna et al., 2021)。
- 顔面神経管:側頭骨内を走行する顔面神経を保護する管です。ベル麻痺や側頭骨骨折による顔面神経麻痺の病態理解に重要です(Jackler and Brackmann, 2023)。
参考文献