盲腸 Caecum

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J0635 (消化管のやや模式的な概観図)

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J0700 (回盲部:盲腸は拡張、後方からの図)

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J0701 (回盲部:盲腸は収縮)

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J0702 (回盲部:虫垂は伸ばされ、前部の位置で部分的に開いた図)

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J0703 (回盲部の断面、大腸弁:正面からの図)

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J0718 (小腸:正面からの図)

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J0719 (腸間膜の屈曲:前方から見た図)

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J0720 (大腸と腸間膜の根:前方からの図)

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J0725 (盲腸の腹膜窩:前方からの図)

解剖学的構造と位置

盲腸(caecum)は大腸の最初の部分であり、回盲弁から下方へ膨隆した盲端の嚢状構造を呈します(Gray and Lewis, 2020; Standring, 2021)。解剖学的特徴として、深さ約6cm、幅約7cmの袋状構造で、右腸骨窩(右下腹部)に位置しています(Moore et al., 2022)。盲腸は通常、完全または不完全に腹膜に覆われており、ある程度の可動性を持っています(Skandalakis et al., 2004)。この可動性の程度は個体差が大きく、完全に後腹膜固定されている場合から、広範な腸間膜を有して高い可動性を示す場合まで様々です(Netter, 2018)。

壁構造と特徴

盲腸の壁は大腸の中で最も薄く、この解剖学的特徴により、ガスが貯留すると容易に膨張します(Standring, 2021; Drake et al., 2020)。盲腸壁は粘膜層、粘膜下層、筋層(内輪状筋層と外縦走筋層)、漿膜層の4層構造からなります(Ross and Pawlina, 2021)。盲腸の表面には3本の結腸ヒモ(taeniae coli)が前面、後面、左側面に縦走しており、これらは盲腸から連続する上行結腸の特徴的な縦走筋束です(Moore et al., 2022)。結腸ヒモは盲腸の下端で虫垂根部に収束します(Netter, 2018)。盲腸の下端後左方からは虫垂(appendix vermiformis)が突出しており、この部位は臨床的に虫垂炎の際に重要な位置関係となります(McBurneyの点)(Sabiston and Townsend, 2022)。虫垂の位置は個体差が大きく、骨盤内、後盲腸、下行盲腸など様々な位置をとりえます(Snell, 2019)。

回盲弁の構造と機能

回腸が盲腸へ開口する部位である回盲口(ostium ileocecale)は、盲腸と上行結腸の移行部の左後壁に位置します(Moore et al., 2022; Standring, 2021)。この開口部には、上唇(labium superius)と下唇(labium inferius)からなる回盲弁(valva ileocecalis, Bauhin弁)が存在し、回腸から盲腸への内容物の一方向性の流れを制御し、逆流を防止する重要な機能を果たしています(Gray and Lewis, 2020; Drake et al., 2020)。両唇の端は合わさって回盲弁小帯(frenula valvae ileocecalis)という輪状の隆起を形成しています(Netter, 2018)。回盲弁の機能には受動的機序と能動的機序の両方が関与しており、盲腸内圧の上昇は弁の閉鎖を促進します(Yamada et al., 2018)。弁の機能不全は大腸内容物の小腸への逆流を引き起こし、細菌異常増殖症候群の原因となりえます(Feldman et al., 2021)。

発生学

発生学的には、盲腸と虫垂は中腸の遠位側半部から派生する盲腸芽(網腸憩室、diverticulum omphaloentericum)に由来します(Sadler, 2019; Moore et al., 2020)。発生過程において、胎生6週頃に中腸ループの尾側脚に盲腸芽が出現し、網腸憩室の近位部は太く発達して盲腸となり、遠位部は相対的に発達が遅く、細い管状の虫垂になります(Langman, 2019)。胎生初期には盲腸は上方に位置していますが、胎生後期になると結腸の近位部が伸長するにつれて下方へ移動し、最終的に右腸骨窩に定着します(Sadler, 2019; Schoenwolf et al., 2020)。この下降過程の異常は盲腸の位置異常(高位盲腸など)を引き起こします(Moore et al., 2020)。

臨床的意義

臨床的意義として、盲腸は虫垂炎の際に関連痛や圧痛の部位となり、また盲腸捻転(cecal volvulus)や盲腸潰瘍(cecal ulcer)などの疾患の場となります(Yamada et al., 2018; Sabiston and Townsend, 2022)。右下腹部痛の鑑別診断において盲腸の病変は重要な位置を占めており、虫垂炎、クローン病、腸結核、アメーバ性腸炎、盲腸癌などが含まれます(Feldman et al., 2021)。大腸内視鏡検査では回盲弁の観察が盲腸到達の重要な指標となり、完全な大腸検査の質保証の基準となっています(Cotton and Williams, 2020)。盲腸捻転は大腸捻転の中で約40%を占め、緊急手術を要する腹部救急疾患です(Yeo, 2019)。また、盲腸は腸閉塞時に最も穿孔しやすい部位とされ、Laplace's lawにより壁が薄く直径が大きいことが関係しています(Brunicardi et al., 2019)。

参考文献