解剖学的構造と位置
盲腸は、大腸の最初の部分であり、回盲弁から下方へ膨隆した盲端の嚢状構造です(Gray and Lewis, 2020)。解剖学的特徴として、深さ約6cm、幅約7cmの袋状構造で、右腸骨窩(右下腹部)に位置しています。表面は腹膜に覆われており(完全または不完全に)、ある程度の可動性を持っています。
壁構造と特徴
盲腸の壁は大腸の中で最も薄く、この特徴によりガスが溜まると容易に膨張します(Standring, 2021)。盲腸の表面には3本の結腸ヒモ(taeniae coli)が前面、後面、左側面に縦走しており、これらは盲腸から連続する上行結腸の特徴的な縦走筋束です。盲腸の下端後左方からは虫垂(appendix vermiformis)が突出しており、この部位は臨床的に虫垂炎の際に重要な位置関係となります(McBurneyの点)。
回盲弁の構造と機能
回腸が盲腸へ開口する部位である回盲口(ostium ileocecale)は、盲腸と上行結腸の移行部の左後壁に位置します(Moore et al., 2022)。この開口部には、上唇(labium superius)と下唇(labium inferius)からなる回盲弁(valva ileocecalis, Bauhin弁)が存在し、回腸から盲腸への内容物の流れを制御し、逆流を防止する重要な機能を果たしています。両唇の端は合わさって回盲弁小帯(frenula valvae ileocecalis)という輪状の隆起を形成しています。
発生学
発生学的には、盲腸と虫垂は中腸の遠位側半部から派生する盲腸芽(網腸憩室、diverticulum omphaloentericum)に由来します(Sadler, 2019)。発生過程において、網腸憩室の近位部は太く発達して盲腸となり、遠位部は相対的に発達が悪く、細い管状の虫垂になります。胎生期には盲腸は上方に位置していますが、発達に伴い結腸の近位部が伸長するにつれて下方へ移動します。
臨床的意義
臨床的意義として、盲腸は虫垂炎の際に関連痛や圧痛の部位となり、また盲腸捻転や盲腸潰瘍などの疾患の場となります(Yamada et al., 2018)。右下腹部痛の鑑別診断において盲腸の病変は重要な位置を占めています。また、大腸内視鏡検査では回盲弁の観察が検査の重要な指標となります。
参考文献
J0702 (回盲部:虫垂は伸ばされ、前部の位置で部分的に開いた図)