大腿直筋は大腿四頭筋を構成する4つの筋のうち唯一の二関節筋であり、大腿前面の中央浅層に位置する紡錘形の筋です。その解剖学的構造と臨床的意義について、以下に詳述します(Gray and Standring, 2016; Moore et al., 2018)。

J0215 (右の寛骨:筋の起こる所と着く所を示す外側からの図)











大腿直筋は2つの頭で起始します(Neumann, 2017; Netter, 2018):
これら2つの頭は起始後すぐに合流し、単一の筋腹を形成します。この二頭起始は大腿直筋の特徴的な解剖学的構造であり、股関節と膝関節の両方に作用する機能的基盤となっています(Platzer, 2018)。
大腿直筋の筋腹は紡錘形を呈し、大腿前面の中央を縦走します。筋線維は羽状配列(pennate arrangement)を示し、中央腱に対して斜めに走行することで、力の伝達効率を高めています(Lieber and Ward, 2011)。
筋腹は近位から遠位に向かうにつれて次第に幅広くなり、大腿中央部で最大幅に達した後、遠位では再び狭小化しながら扁平な腱膜を形成します(Platzer, 2018)。この形態は、筋の収縮力を効率的に膝関節に伝達するために最適化されています。
大腿直筋は膝蓋骨の上縁(superior border of patella)に停止します。具体的には(Clarkson, 2021; Drake et al., 2019):
膝蓋骨は種子骨(sesamoid bone)として機能し、大腿四頭筋の作用線を前方に移動させることで、膝伸展のモーメントアームを増大させる役割を果たしています(Neumann, 2017)。
大腿直筋は**大腿神経(femoral nerve, L2-L4)**によって支配されます(Schünke et al., 2020)。大腿神経は腰神経叢から起こり、腸腰筋と大腰筋の間を通過した後、鼠径靭帯の下方で大腿に入ります。大腿神経の筋枝は大腿三角内で分岐し、大腿直筋の深面から筋に侵入します。