大腿方形筋

大腿方形筋は坐骨結節から始まり、大腿骨の転子間稜(大転子と小転子の間の稜線)に接続する長方形の筋肉です。この表面を通って坐骨神経などが下肢に走ります。支配神経は仙骨神経叢(L5, S1, S2)で、血液の供給は内側大腿回旋動脈と下殿動脈から受けます。

日本人のからだ(秋田恵一 2000)によると

回旋筋群には、梨状筋、内閉鎖筋、上・下双子筋、大腿方形筋が含まれ、主な作用は大腿の外旋です。梨状筋の形態については、河野(1929/1930)が140側について報告しています。梨状筋の起始が仙骨の背側面まで伸びているのが57側(40.7%)、梨状筋の前面に小殿筋がはいっているのが75側(53.6%)、梨状筋と中殿筋とが連続しているのが14側(10%)だとされています。梨状筋の変異報告の大部分は、仙骨神経叢の各枝と位置関係および貫通様式についてで、これらについての詳細は末梢神経の章で詳しく述べられています。

Bardeen (1906/1907)の発生学的研究によれば、内閉鎖筋と上・下双子筋は、共通原基からそれぞれ分化したとされています。しかし、菊池(1987)によれば、内閉鎖筋神経から上双子筋への筋枝、大腿方形筋神経から下双子筋への筋枝が起始していると考えられています。したがって、上および下双子筋はそれぞれ別の神経によって支配されているため、双子筋という用語は両筋が同一系統の筋であるかのような印象を与え、検討が必要であると指摘しています。一方、Shinohara (1995)は、上・下双子筋と内閉鎖筋についての神経支配の調査から、3筋はそれぞれ独立した筋であるというよりは、停止を共有する一つの三頭筋と考える方が適当であると述べています。また、Honma et al. (1998)は、支配神経の筋内分布の詳細調査から、両双子筋は内閉鎖筋の一部と考える方が妥当であると述べています。

三浦(1932)は、双子10体研究で上双子筋の両側性の欠如を1件報告しています。椎名(1930)は、上双子筋の副束が尾骨筋に癒合しているのを1側で報告しています。この例では、尾骨筋の筋束の一部が異常に外上方に伸び、上双子筋の後内方に伸びたものに合っていたと述べています。

大腿方形筋の欠如は報告されています。Adachi (1909/1910)は、303体中11体(両側性5体、1側性6体)で見られたと報告しています。また、小金井ら(1903)は、294側中6側(男性、207側中4側;女性、87側中2側)で見られたと報告しています。