肩甲骨 Scapula
肩甲骨は、上肢帯を構成する重要な骨であり、解剖学的・臨床的に以下の特徴を持ちます (Gray, 2020; Netter, 2019):
- 位置と形態:
- 胸郭の背側上部外側に位置する三角形の大型で扁平な骨 (Moore et al., 2018)
- 第2から第7肋骨に覆われており、胸壁に対して浮遊している(直接の骨性連結がない)
- 厚さは約1cmであり、外側に向かうにつれて厚くなる (Standring, 2021)
- 関節形成:
- 肩鎖関節(acromioclavicular joint)で鎖骨と関節を形成
- 肩関節(glenohumeral joint)で上腕骨と関節を形成 (Terry and Chopp, 2000)
- 胸郭との間に肩甲胸郭関節(scapulothoracic joint)という機能的関節を形成
- 主な解剖学的構成要素:
- 2つの面:肋骨面(前面・肋骨面)と背面(後面)(Standring, 2021)
- 3つの縁:内側縁(脊柱側)、外側縁(腋窩側)、上縁
- 3つの角:上角、下角、外側角(関節角)
重要な形態学的特徴:
- 関節窩(glenoid cavity/fossa):外側角に位置する楕円形の浅い窪みで、上腕骨頭と接続し肩関節を形成 (Burkhart et al., 2002)
- 肩甲棘(scapular spine):背面を横断する顕著な隆起で、触診可能であり、棘上窩と棘下窩を区分
- 肩峰(acromion):肩甲棘の外側端が拡大した部分で、鎖骨と関節を形成し、肩関節を保護 (Bigliani et al., 1991)
- 肩甲切痕(scapular notch):上縁の外側部にある切痕で、肩甲上神経が通過
- 烏口突起(coracoid process):「カラスのくちばし」状の突起で前方に突出し、重要な靭帯や筋の付着部 (Edelson and Taitz, 1992)
- 肩甲下窩(subscapular fossa):肋骨面にある浅い窪みで、肩甲下筋の起始部
- 棘上窩・棘下窩(supraspinous/infraspinous fossa):背面にある棘上筋と棘下筋の起始部
臨床的意義:
- 外傷:肩甲骨骨折は高エネルギー外傷で生じ、胸部の重篤な損傷を伴うことが多い (Cole, 2013)
- 肩関節疾患:肩峰下インピンジメント症候群、回旋筋腱板損傷の病態に関与 (Neer, 1972)
- 肩甲骨の運動異常(肩甲骨の翼状変形):長胸神経麻痺による前鋸筋の機能不全で生じる (Martin and Fish, 2008)
- 触診のランドマーク:肩甲棘、肩峰、烏口突起は重要な触診指標
- 筋電図検査:肩甲骨周囲筋の評価に重要 (Kibler et al., 2013)
肩甲骨は上肢の動きと安定性に重要な役割を果たし、多くの筋(棘上筋、棘下筋、小円筋、大円筋、肩甲下筋、三角筋、上腕二頭筋長頭、上腕三頭筋長頭など)の付着部位となっています。肩甲上腕リズムにおいて、肩甲骨の回旋運動は上肢の挙上に不可欠です (Inman et al., 1944)。