仙骨 Os sacrum [Vertebrae sacrales I-V]
仙骨は、脊柱の下部に位置する三角形の骨で、解剖学的および臨床的に重要な構造です(Drake et al., 2020)。
解剖学的特徴
- 第1から第5仙椎が成人で癒合して形成され、骨盤の後壁を構成します(Moore et al., 2018)。仙骨の形状は上部が広く下部が狭い逆三角形を呈し、前方に凹、後方に凸の弯曲を持ちます。
- 元の仙椎構造が変化し、棘突起が正中仙骨稜に、関節突起が中間仙骨稜に、横突起が外側仙骨稜となります(Standring, 2021)。これらの稜線は仙骨後面に縦に走行しています。
- 前仙骨孔と後仙骨孔があり、片側に4対(計8個)の仙骨孔が存在し、脊髄神経の前枝と後枝が通過します。S1〜S4の仙骨神経がこれらの孔を通過します(Netter, 2019)。
- 外側の耳状面が腸骨の耳状面と関節を形成し、仙腸関節を構成します。この関節は線維軟骨結合で、わずかな動きしか許容しません(Vleeming et al., 2012)。
- 仙骨底(上端)の前方に岬角(プロモントリウム)という突出部があり、産科学的に骨盤入口の後方境界点として重要です(Cunningham et al., 2018)。
- 仙骨管は脊柱管の続きであり、硬膜囊と馬尾を内包しています。管は通常S2レベルで終わり、仙骨裂として開放しています(Drake et al., 2020)。
臨床的意義
- 仙骨骨折:高エネルギー外傷や転落事故による骨折が生じうる。Denis分類で分類され、神経障害を伴うことがあります(Denis et al., 1988)。
- 仙腸関節炎:炎症性疾患や妊娠に関連して疼痛が生じることがあります(Sieper et al., 2009)。
- 硬膜外麻酔:仙骨裂から薬剤を注入する仙骨硬膜外麻酔は産科や疼痛管理で用いられます(Miller et al., 2015)。
- 仙骨神経刺激療法:仙骨神経を電気刺激し、骨盤底機能障害や慢性疼痛の治療に用いられます(Tanagho and Schmidt, 1988)。
仙骨は骨盤の重要な構成要素であり、脊柱と骨盤を連結する役割を果たすとともに、出産時の骨盤径の決定や、排尿・排便機能に関与する神経の通路としても重要です(Standring, 2021)。男女間で形態差があり、女性の仙骨はより短く幅広く、弯曲が弱い傾向があります(Flander, 1978)。
参考文献
- Cunningham, F.G., Leveno, K.J., Bloom, S.L., et al. (2018) Williams Obstetrics. 25th ed. New York: McGraw-Hill Education. - 産科学の標準的教科書で、骨盤解剖学と仙骨の産科的意義について詳細に解説しています。
- Denis, F., Davis, S. and Comfort, T. (1988) 'Sacral fractures: an important problem. Retrospective analysis of 236 cases', Clinical Orthopaedics and Related Research, 227, pp. 67-81. - 仙骨骨折の分類と臨床的結果に関する重要な研究であり、現在でも広く使用されているDenis分類を提唱した論文です。
- Drake, R.L., Vogl, W. and Mitchell, A.W.M. (2020) Gray's Anatomy for Students. 4th ed. Philadelphia: Elsevier. - 医学生向けの解剖学教科書で、仙骨の基本的構造と機能について明確な解説と図解を提供しています。
- Flander, L.B. (1978) 'Univariate and multivariate methods for sexing the sacrum', American Journal of Physical Anthropology, 49(1), pp. 103-110. - 仙骨の性差を同定するための方法論を提示した論文で、法医学的鑑定や人類学的研究に重要な知見を提供しています。