切歯 Dentes incisivus (Incisor teeth)
切歯は、ヒトの歯列において最も前方に位置する歯であり、形態学的、機能的、臨床的に重要な役割を果たしています。以下に、解剖学的特徴と臨床的意義について詳述します。

J0111 (19cm長胎児(5ヶ月の初め)の口蓋:下方からの図)

J0641 (永久歯:唇または頬側からの図)

J0642 (永久歯:舌側からの図)

J0643 (右側上顎の永久歯:接触表面; 側面からの前歯、後部からの後歯)

J0646 (3〜4歳の子供の乳歯が付いた下顎骨)

J0647 (3〜4歳の子供の乳歯が付いた上顎骨)

J0648 (約5歳小児の顔の骨、乳歯と永久歯の露出した構造、右側から少し前方からの図)

J0649 (下顎の永久歯:上方からの図)

J0650 (上顎の永久歯および口蓋の粘膜、下方からの図)

J0651 (永久歯列:右側からの図)

J0653 (新生児の顔の骨格と露出した歯の区画:右側からやや正面の図)

J0654 (新生児の左側下顎半分(図653参照)で、歯小嚢が露出している右側からの図)

J0656 (下顎切歯(中切歯)を含む周囲を通る断面)

J0657 (上顎切歯の矢状断面)
解剖学的特徴
位置と数
切歯は歯列弓の正中線を挟んで左右対称に配置され、上下顎それぞれに4本ずつ、計8本存在します。各側には中切歯(central incisor)と側切歯(lateral incisor)の2本があり、これらは歯列の第1位と第2位を占めます (Berkovitz et al., 2017)。上顎では中切歯が側切歯より大きいのに対し、下顎では両者のサイズ差は比較的小さいという特徴があります (Nanci, 2018)。
歯冠の形態
切歯の歯冠は唇舌的に扁平で、ノミ状(shovel-shaped)の特徴的な形状を呈します。この形態は食物を切断する機能に最適化されています (Bath-Balogh and Fehrenbach, 2011)。
- 唇側面(labial surface):滑らかな凸面を形成し、審美的に重要な表面です。発育葉に対応する縦の隆線が認められることがあります。
- 舌側面(lingual surface):凹面を呈し、切縁から歯頸部に向かう舌側隆線(cingulum)と、その両側に辺縁隆線(marginal ridges)が存在します。これらの隆線に囲まれた部分は舌側窩(lingual fossa)と呼ばれます (Scheid and Weiss, 2012)。
- 切縁(incisal edge):歯冠の自由端は鋭い直線状の切縁を形成します。萌出直後の歯では3つの小結節(mamelons)が見られますが、咬耗により次第に平坦化します。
- 近心面・遠心面(mesial and distal surfaces):三角形を呈し、歯冠を近遠心的に見ると楔形の外観を示します。
歯根の形態
切歯はすべて単根歯であり、歯根は円錐形で唇舌的に扁平です。歯根の長さは歯冠より長く、特に上顎中切歯では歯根/歯冠比が大きくなります。根尖孔は通常根尖部に開口しますが、わずかに遠心側に偏位することがあります (Nelson and Ash, 2010)。
サイズと変異
- 上顎中切歯:全永久歯中最も幅が広く、歯冠幅は約8.5-9.0mm、歯冠高は約10.5-11.0mmです。審美領域において最も目立つ歯であり、顔貌の印象に大きく影響します (Ahmad, 2005)。
- 上顎側切歯:上顎中切歯より小型で、形態的変異が最も多い歯の一つです。矮小歯(peg-shaped tooth)や円錐歯が比較的高頻度で見られ、先天欠如も起こりやすい歯です。
- 下顎中切歯:全永久歯中最小の歯であり、歯冠幅は約5.0-5.5mmです。唇舌的に強く扁平化され、左右対称性が高い形態を示します。
- 下顎側切歯:下顎中切歯よりわずかに大きく、わずかに非対称的な形態を示します。
歯髄腔の形態