中手骨 Ossa metacarpi [I-V]
中手骨は手根骨と指骨の間に位置し、手の骨格の主要部分を形成する重要な骨群です。解剖学的特徴と臨床的意義は以下のとおりです(Gray and Carter, 2010; Netter, 2018):
解剖学的特徴
- 位置と構造:手根骨の遠位に配列する5本の細長い管状骨で、手掌部の骨格を形成します(Standring, 2020)。
- 形態的特徴:各中手骨は近位から遠位に向かって、底(basis)、体(corpus)、頭(caput)の3部分から構成されています(Moore et al., 2018)。
- 各部の詳細:
- 底部(basis):近位端に位置し、手根骨と関節する不規則な関節面を持ちます。第2〜5中手骨の底部側面には隣接する中手骨と関節する小関節面があります(Scheuer and Black, 2000)。
- 体部(corpus):掌側は平坦〜凹状、背側は凸状の三角柱状で、中央部が最も細くなっています(Standring, 2020)。
- 頭部(caput):遠位端に位置し、凸面の関節面を持ち、中手指節関節(MP関節)を形成します。頭部の両側には側副靱帯付着用の結節があります(Tubiana et al., 2012)。
- 個別的特徴:
- 第1中手骨:最も短く太く、他の中手骨と比べて可動性が高く、対立運動を可能にします。底部は鞍状関節面を持ち、大菱形骨と関節します(Agur and Dalley, 2017)。
- 第2中手骨:最も長く、小菱形骨、大菱形骨、有頭骨と関節し、最も固定されています(Green, 2005)。
- 第3中手骨:有頭骨と関節し、長さは第2中手骨に次ぎます。底部背側には茎状突起があります(Standring, 2020)。
- 第4・第5中手骨:有鈎骨と関節し、第5中手骨は尺側に向かって可動性が増します(Tubiana et al., 2012)。
臨床的意義
- 骨折:中手骨骨折は手の骨折の約30%を占め、特にボクサー骨折(第5中手骨頸部骨折)が一般的です(Ashurst et al., 2018)。
- 関節炎:中手指節関節は関節リウマチでよく侵される部位です。尺側偏位と手の変形を引き起こします(van Vugt et al., 2018)。
- 先天異常:多指症、合指症などの先天異常が中手骨に関連して生じることがあります(Jones, 2006)。
- 外傷:第1中手骨底部の脱臼骨折(ベネット骨折)は親指の対立運動に大きな影響を与えます(Meals and Meals, 2013)。
- 機能的重要性:中手骨は手の縦アーチと横アーチの形成に寄与し、握力や精密把握などの手の機能に不可欠です(Tubiana et al., 2012; Levangie and Norkin, 2011)。
中手骨は解剖学的には単純な骨に見えますが、その配列と構造は手の複雑な運動と機能を可能にする重要な要素です。特に第1中手骨の独特な可動性は、人間の精密把握能力の基盤となっています(Napier, 1956; Marzke, 2013)。
参考文献
- Agur, A.M.R. and Dalley, A.F. (2017) Grant's Atlas of Anatomy. 14th ed. — 解剖学的図版が豊富で中手骨の形態と関係性を詳細に示している
- Ashurst, J.V., Turco, D.A. and Lieb, B.E. (2018) 'Metacarpal Fractures', StatPearls Publishing. — 中手骨骨折の臨床的特徴と治療法を網羅している
- Gray, H. and Carter, H.V. (2010) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice. 40th ed. — 解剖学の古典的教科書で中手骨の基本的解剖を詳述している
- Green, D.P. (2005) Green's Operative Hand Surgery. 5th ed. — 手の外科的治療に焦点を当て、中手骨の臨床的重要性を強調している
- Jones, K.L. (2006) Smith's Recognizable Patterns of Human Malformation. 6th ed. — 先天性異常に関する包括的参考書で多指症や合指症などの手の先天異常を扱っている