『十四経発揮』と経絡理論
『十四経発揮』(1341年)は、元代の医家・滑寿(かつじゅ、滑伯仁)によって著された経絡学説の体系的な専門書で、経絡理論を初めて独立した学問分野として確立した歴史的に極めて重要な文献です。














『十四経発揮』の歴史的意義
- 経絡学の独立:それまで経絡に関する記述は『黄帝内経』や『難経』などに散在していましたが、滑寿は初めて経絡を専門的に論じた独立した著作を完成させました。
- 十四経脈の体系化:従来の十二経脈(手足の陰陽各6経)に加えて、任脈と督脈を正式に加え、「十四経脈」として体系化しました。これにより、体前面の陰を統括する任脈と、体背面の陽を統括する督脈が、十二経脈と同等の重要性を持つことが明確にされました。
- 経穴の整理:各経絡上の経穴(ツボ)354穴を詳細に記載し、その位置・主治・刺鍼法を明示することで、鍼灸臨床の標準化に貢献しました。
経絡の仕組みと『十四経発揮』
- 経脈の循行路線:『十四経発揮』では、各経脈がどの臓腑から起こり、体表のどこを通り、どの臓腑に連絡するかを詳細に図解し、「経絡流注図」として視覚化しました。これにより、気血がどのように体内を巡るかが理解しやすくなりました。
- 表裏関係:手足の陰経と陽経がペアを組む「表裏関係」(例:肺経と大腸経、心経と小腸経など)を明確にし、臓腑間の連携と相互作用を説明しました。
- 絡脈の役割:十五絡脈を通じて経脈同士が横に連絡し、気血が全身を途切れることなく循環する仕組みを詳述しました。
臨床応用における重要性
- 診断への応用:経絡理論により、体表の症状(痛み、しびれ、圧痛など)から内臓の病変を推測する「経絡弁証」が可能になりました。
- 治療法の確立:経絡上のツボを刺激することで、遠隔部位や関連臓腑の治療ができる理論的根拠を提供しました。例えば、胃の不調に対して足の陽明胃経上のツボ(足三里など)を使う方法です。
- 気血調整の理論:「虚すれば補い、実すれば瀉す」という補瀉の原則に基づき、経絡の気血の過不足を調整する治療戦略が体系化されました。
現代への影響
『十四経発揮』は現代の鍼灸教育と臨床の基礎となっており、WHO(世界保健機関)が定めた経穴の国際標準化も、この書物の体系に基づいています。また、現代医学における筋膜連鎖理論や神経反射理論との対応関係の研究も進んでおり、経絡理論の科学的解明が進められています。
まとめ
『十四経発揮』は、東洋医学における経絡理論を初めて体系的に整理・図解した画期的な著作であり、700年近く経った現在でも鍼灸医学の根幹をなす重要文献です。この書物により、気血の循環、臓腑と体表の連絡、診断と治療の理論的基盤が確立され、経絡医学が実用的な臨床体系として完成しました。