足の陽明胃経(あしのようめいいけい)

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十四経発揮(1341年・滑伯仁)

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類経図翼(1624年・張介賓)

経穴図版(澤田健)足の陽明胃経.png

澤田健(1940年)

経穴図版(代田文誌)足の陽明胃経.png

代田文誌(1940年)

足の陽明胃経は、十二経脈の一つで、消化器系、特に胃の機能に深く関わる経絡です。顔面から始まり、胸部・腹部を下行し、下肢を通って足の第二趾に至る長大な経絡で、全身の気血の巡りと栄養の分配に重要な役割を果たします。

生命力の根源である「胃気」を司る経絡であり、代田文誌・澤田健の治療体系においても中心的な位置を占めています。45穴の経穴を持つこの経絡は、消化器症状だけでなく、全身の気血の充実、精神の安定、免疫力の向上など、幅広い健康維持に不可欠です。

足の陽明胃経(ST)の経穴一覧

部位 経穴番号 経穴名 読み 主な特徴・主治 解説
頭頸部〜顔面 ST1 承泣 しょうきゅう 眼精疲労、視力低下、眼瞼痙攣 瞳孔の直下、眼窩下縁に位置。眼球を「承ける」穴で、目の疲れや涙の異常に用いる。
ST2 四白 しはく 顔面神経麻痺、三叉神経痛、眼疾患 瞳孔の直下、眼窩下孔部。四方に光を放つ明るい表情を作る穴。美容鍼でも重視される。
ST3 巨髎 こりょう 鼻疾患、顔面神経麻痺、歯痛 鼻翼の外方、頬骨下縁に位置。「大きな骨の孔」の意で、顔面部の気血循環を改善する。
ST4 地倉 ちそう 口角炎、顔面神経麻痺、流涎 口角の外方0.4寸。「地の倉庫」の意で、口周りの栄養と筋肉の動きを調整する。
ST5 大迎 だいげい 顔面浮腫、歯痛、顎関節症 下顎角前方、顔面動脈の拍動部。胃経の気を「大きく迎える」要穴。
ST6 頬車 きょうしゃ 歯痛、顎関節症、顔面神経麻痺 下顎角の前上方、咬筋隆起部。噛むときに動く「車」のような筋肉の部位。
ST7 下関 げかん 顎関節症、耳鳴り、難聴 頬骨弓の下縁、顎関節の前方。口を開けるとくぼむ。顎関節疾患の特効穴。
ST8 頭維 ずい 頭痛、めまい、眼疾患 額角髪際の上0.5寸。「頭を維持する」穴で、頭部の陽気を保つ。片頭痛に有効。
ST9 人迎 じんげい 高血圧、喘息、甲状腺疾患 喉頭隆起の外方1.5寸、総頸動脈の拍動部。「人の気を迎える」重要穴。施術には注意が必要。
ST10 水突 すいとつ 咽喉痛、喘息、甲状腺腫 喉頭隆起の外方、胸鎖乳突筋の前縁。水(唾液)が「突き出る」部位で、嚥下障害に用いる。
ST11 気舎 きしゃ 咽喉痛、咳嗽、頸部の腫脹 鎖骨上窩、胸鎖乳突筋の胸骨頭と鎖骨頭の間。「気の舎(宿)」で呼吸器疾患に重要。
胸部〜上腹部 ST12 欠盆 けつぼん 咳嗽、喘息、肩こり 鎖骨上窩の中央、乳頭線上。「欠けた盆」のようなくぼみで、上肢と胸部をつなぐ要所。
ST13 気戸 きこ 咳嗽、喘息、胸痛 鎖骨下縁、乳頭線上。「気の戸(入口)」で、肺気の出入りを調整する。
ST14 庫房 こぼう 咳嗽、胸痛、乳腺炎 第1肋間、乳頭線上。「倉庫」の意で、胸中の気を蓄える場所。
ST15 屋翳 おくえい 咳嗽、胸痛、乳汁不足 第2肋間、乳頭線上。「屋根の庇」のように乳房を覆い保護する穴。
ST16 膺窓 ようそう 咳嗽、胸痛、乳腺疾患 第3肋間、乳頭線上。「胸の窓」で、胸中の気を開放する。
ST17 乳中 にゅうちゅう 取穴の目安(施灸禁忌) 乳頭の中央。取穴の基準点として用いるが、刺鍼・施灸は禁忌。
ST18 乳根 にゅうこん 乳腺炎、乳汁分泌不全、咳嗽 乳頭の直下、第5肋間。「乳の根」で、授乳期の諸症状に重要。
ST19 不容 ふよう 胃痛、嘔吐、食欲不振 臍上6寸、前正中線の外方2寸。「容れず」の意で、胃の受納機能を調整。
ST20 承満 しょうまん 胃痛、嘔吐、腹部膨満 臍上5寸、前正中線の外方2寸。「満ちたものを承ける」穴で、胃の膨満感を解消。
ST21 梁門 りょうもん 胃痛、食欲不振、消化不良 臍上4寸、前正中線の外方2寸。「梁(はり)の門」で、胃の入口を守る。
ST22 関門 かんもん 胃痛、嘔吐、下痢 臍上3寸、前正中線の外方2寸。胃と腸の「関所」で、消化物の通過を調整。
ST23 太乙 たいいつ 胃痛、精神不安、躁鬱 臍上2寸、前正中線の外方2寸。「太一(天の中心)」の神を祀る穴で、精神安定作用がある。
ST24 滑肉門 かつにくもん 胃痛、嘔吐、精神疾患 臍上1寸、前正中線の外方2寸。「滑らかな肉の門」で、胃腸の蠕動を促進。
ST25 天枢 てんすう 大腸の募穴、腹痛・下痢・便秘の特効穴 臍の外方2寸。大腸の募穴で「天の枢軸」の意。腸疾患全般に最重要穴。代田・澤田両氏が特に重視。
ST26 外陵 がいりょう 腹痛、疝痛、月経痛 臍下1寸、前正中線の外方2寸。「外側の丘」で、下腹部痛に用いる。
ST27 大巨 だいこ 便秘、下痢、月経不順 臍下2寸、前正中線の外方2寸。「大きな巨人」の意で、大腸機能を強化。
ST28 水道 すいどう 膀胱炎、月経痛、不妊症 臍下3寸、前正中線の外方2寸。「水の道」で、泌尿生殖器の水液代謝を調整。
ST29 帰来 きらい 月経不順、不妊症、疝痛 臍下4寸、前正中線の外方2寸。「帰り来る」の意で、月経の回復や妊娠を促す。
鼠径部〜大腿 ST30 気衝 きしょう 月経不順、疝痛、下肢の冷え 鼠径溝上、恥骨結合上縁の外方2寸。「気が衝(つ)く」穴で、下肢への気血流通の起点。
ST31 髀関 ひかん 股関節痛、下肢の痺れ、腰痛 大腿前面、上前腸骨棘と膝蓋骨外上角の連線上。「股関節」の重要穴。
ST32 伏兎 ふくと 膝関節痛、下肢の冷え、腰痛 大腿前面、膝蓋骨底の上6寸。大腿四頭筋の隆起が「伏せた兎」のように見える。
ST33 陰市 いんし 膝関節痛、下肢の痺れ、浮腫 大腿前面、膝蓋骨底の上3寸。「陰(内側)の市場」で、気血が集まる場所。
ST34 梁丘 りょうきゅう 胃経の郄穴、急性胃痛、膝痛 大腿前面、膝蓋骨底の上2寸。胃経の郄穴で、急性疾患、特に急性胃痛の特効穴。
ST35 犢鼻 とくび 膝関節痛、膝の腫脹、変形性膝関節症 膝蓋靱帯の外側陥凹部。「子牛の鼻」のようなくぼみで、膝疾患の第一選択穴。
下腿〜足背 ST36 足三里 あしさんり 胃経の合穴、万能のツボ、体力増強 犢鼻の下3寸、脛骨前縁の外方1横指。胃経の合土穴で「万能のツボ」。松尾芭蕉も旅に用いた。代田・澤田流の根本治療穴。
ST37 上巨虚 じょうこきょ 大腸の下合穴、下痢、便秘、腹痛 犢鼻の下6寸。大腸の下合穴で、大腸疾患の治療に重要。「上の大きな空虚」の意。
ST38 条口 じょうこう 肩こり、下肢痛、膝関節痛 犢鼻の下8寸。「条(細長い)口」の意。遠隔治療で肩関節痛に著効。
ST39 下巨虚 げこきょ 小腸の下合穴、下痢、腹痛、乳腺炎 犢鼻の下9寸。小腸の下合穴で、小腸疾患の治療に用いる。「下の大きな空虚」の意。
ST40 豊隆 ほうりゅう 胃経の絡穴、痰湿除去、咳嗽・頭痛 犢鼻の下8寸、脛骨前縁の外方2横指。胃経の絡穴で「豊かに隆起」する筋肉部。痰湿除去の第一選択穴。
ST41 解谿 かいけい 胃経の経穴、足関節痛、頭痛、めまい 足関節前面中央の陥凹部。胃経の経火穴で「谷間を解く」意。足関節疾患と頭部症状に有効。
ST42 衝陽 しょうよう 胃経の原穴、足背動脈の拍動部、胃痛 足背、第2・3中足骨底の間。胃経の原穴で足背動脈拍動部。「陽気が衝く」穴で胃気の状態を診る診断穴。
ST43 陥谷 かんこく 胃経の兪穴、顔面浮腫、足背痛 足背、第2・3趾間、中足趾節関節の前陥凹部。胃経の兪木穴で「陥った谷」の意。
ST44 内庭 ないてい 胃経の滎穴、胃熱による歯痛・口臭 足背、第2・3趾間、趾間の縁。胃経の滎水穴で「内なる庭」の意。胃熱を清する重要穴。
ST45 厲兌 れいだ 胃経の井穴、悪夢、精神不安、鼻出血 第2趾外側、爪甲角の近位外方0.1寸。胃経の井金穴で「鋭く突き出る」意。精神症状と熱証に刺絡する。

全45穴の経穴が、頭頸部から足背まで体系的に配列されています。特に**足三里(ST36)**は「万能のツボ」として、**天枢(ST25)**は大腸の募穴として、**豊隆(ST40)**は痰湿除去の要穴として、代田文誌・澤田健の治療体系で重視されています。

経絡の流注(流れ)

足の陽明胃経は以下の順に流れます:

  1. **顔面部:**目の下(承泣)から始まり、鼻の両側、口角、顎を通り、耳の前(下関)、側頭部(頭維)へ
  2. **頸部:**喉の両側(人迎)を下行
  3. **胸腹部:**鎖骨上窩(欠盆)から乳房の外側を通り、腹部正中線の外側2寸(天枢など)を下行
  4. **下肢:**鼠径部(気衝)から大腿前面(伏兎)、膝(犢鼻)、下腿前外側(足三里)を通り、足背(衝陽)を経て第二趾の外側端(厲兌)で終わる

主な生理機能

臨床上の重要経穴