



足の陽明胃経は、十二経脈の一つで、消化器系、特に胃の機能に深く関わる経絡です。顔面から始まり、胸部・腹部を下行し、下肢を通って足の第二趾に至る長大な経絡で、全身の気血の巡りと栄養の分配に重要な役割を果たします。
生命力の根源である「胃気」を司る経絡であり、代田文誌・澤田健の治療体系においても中心的な位置を占めています。45穴の経穴を持つこの経絡は、消化器症状だけでなく、全身の気血の充実、精神の安定、免疫力の向上など、幅広い健康維持に不可欠です。
| 部位 | 経穴番号 | 経穴名 | 読み | 主な特徴・主治 | 解説 |
|---|---|---|---|---|---|
| 頭頸部〜顔面 | ST1 | 承泣 | しょうきゅう | 眼精疲労、視力低下、眼瞼痙攣 | 瞳孔の直下、眼窩下縁に位置。眼球を「承ける」穴で、目の疲れや涙の異常に用いる。 |
| ST2 | 四白 | しはく | 顔面神経麻痺、三叉神経痛、眼疾患 | 瞳孔の直下、眼窩下孔部。四方に光を放つ明るい表情を作る穴。美容鍼でも重視される。 | |
| ST3 | 巨髎 | こりょう | 鼻疾患、顔面神経麻痺、歯痛 | 鼻翼の外方、頬骨下縁に位置。「大きな骨の孔」の意で、顔面部の気血循環を改善する。 | |
| ST4 | 地倉 | ちそう | 口角炎、顔面神経麻痺、流涎 | 口角の外方0.4寸。「地の倉庫」の意で、口周りの栄養と筋肉の動きを調整する。 | |
| ST5 | 大迎 | だいげい | 顔面浮腫、歯痛、顎関節症 | 下顎角前方、顔面動脈の拍動部。胃経の気を「大きく迎える」要穴。 | |
| ST6 | 頬車 | きょうしゃ | 歯痛、顎関節症、顔面神経麻痺 | 下顎角の前上方、咬筋隆起部。噛むときに動く「車」のような筋肉の部位。 | |
| ST7 | 下関 | げかん | 顎関節症、耳鳴り、難聴 | 頬骨弓の下縁、顎関節の前方。口を開けるとくぼむ。顎関節疾患の特効穴。 | |
| ST8 | 頭維 | ずい | 頭痛、めまい、眼疾患 | 額角髪際の上0.5寸。「頭を維持する」穴で、頭部の陽気を保つ。片頭痛に有効。 | |
| ST9 | 人迎 | じんげい | 高血圧、喘息、甲状腺疾患 | 喉頭隆起の外方1.5寸、総頸動脈の拍動部。「人の気を迎える」重要穴。施術には注意が必要。 | |
| ST10 | 水突 | すいとつ | 咽喉痛、喘息、甲状腺腫 | 喉頭隆起の外方、胸鎖乳突筋の前縁。水(唾液)が「突き出る」部位で、嚥下障害に用いる。 | |
| ST11 | 気舎 | きしゃ | 咽喉痛、咳嗽、頸部の腫脹 | 鎖骨上窩、胸鎖乳突筋の胸骨頭と鎖骨頭の間。「気の舎(宿)」で呼吸器疾患に重要。 | |
| 胸部〜上腹部 | ST12 | 欠盆 | けつぼん | 咳嗽、喘息、肩こり | 鎖骨上窩の中央、乳頭線上。「欠けた盆」のようなくぼみで、上肢と胸部をつなぐ要所。 |
| ST13 | 気戸 | きこ | 咳嗽、喘息、胸痛 | 鎖骨下縁、乳頭線上。「気の戸(入口)」で、肺気の出入りを調整する。 | |
| ST14 | 庫房 | こぼう | 咳嗽、胸痛、乳腺炎 | 第1肋間、乳頭線上。「倉庫」の意で、胸中の気を蓄える場所。 | |
| ST15 | 屋翳 | おくえい | 咳嗽、胸痛、乳汁不足 | 第2肋間、乳頭線上。「屋根の庇」のように乳房を覆い保護する穴。 | |
| ST16 | 膺窓 | ようそう | 咳嗽、胸痛、乳腺疾患 | 第3肋間、乳頭線上。「胸の窓」で、胸中の気を開放する。 | |
| ST17 | 乳中 | にゅうちゅう | 取穴の目安(施灸禁忌) | 乳頭の中央。取穴の基準点として用いるが、刺鍼・施灸は禁忌。 | |
| ST18 | 乳根 | にゅうこん | 乳腺炎、乳汁分泌不全、咳嗽 | 乳頭の直下、第5肋間。「乳の根」で、授乳期の諸症状に重要。 | |
| ST19 | 不容 | ふよう | 胃痛、嘔吐、食欲不振 | 臍上6寸、前正中線の外方2寸。「容れず」の意で、胃の受納機能を調整。 | |
| ST20 | 承満 | しょうまん | 胃痛、嘔吐、腹部膨満 | 臍上5寸、前正中線の外方2寸。「満ちたものを承ける」穴で、胃の膨満感を解消。 | |
| ST21 | 梁門 | りょうもん | 胃痛、食欲不振、消化不良 | 臍上4寸、前正中線の外方2寸。「梁(はり)の門」で、胃の入口を守る。 | |
| ST22 | 関門 | かんもん | 胃痛、嘔吐、下痢 | 臍上3寸、前正中線の外方2寸。胃と腸の「関所」で、消化物の通過を調整。 | |
| ST23 | 太乙 | たいいつ | 胃痛、精神不安、躁鬱 | 臍上2寸、前正中線の外方2寸。「太一(天の中心)」の神を祀る穴で、精神安定作用がある。 | |
| ST24 | 滑肉門 | かつにくもん | 胃痛、嘔吐、精神疾患 | 臍上1寸、前正中線の外方2寸。「滑らかな肉の門」で、胃腸の蠕動を促進。 | |
| ST25 | 天枢 | てんすう | 大腸の募穴、腹痛・下痢・便秘の特効穴 | 臍の外方2寸。大腸の募穴で「天の枢軸」の意。腸疾患全般に最重要穴。代田・澤田両氏が特に重視。 | |
| ST26 | 外陵 | がいりょう | 腹痛、疝痛、月経痛 | 臍下1寸、前正中線の外方2寸。「外側の丘」で、下腹部痛に用いる。 | |
| ST27 | 大巨 | だいこ | 便秘、下痢、月経不順 | 臍下2寸、前正中線の外方2寸。「大きな巨人」の意で、大腸機能を強化。 | |
| ST28 | 水道 | すいどう | 膀胱炎、月経痛、不妊症 | 臍下3寸、前正中線の外方2寸。「水の道」で、泌尿生殖器の水液代謝を調整。 | |
| ST29 | 帰来 | きらい | 月経不順、不妊症、疝痛 | 臍下4寸、前正中線の外方2寸。「帰り来る」の意で、月経の回復や妊娠を促す。 | |
| 鼠径部〜大腿 | ST30 | 気衝 | きしょう | 月経不順、疝痛、下肢の冷え | 鼠径溝上、恥骨結合上縁の外方2寸。「気が衝(つ)く」穴で、下肢への気血流通の起点。 |
| ST31 | 髀関 | ひかん | 股関節痛、下肢の痺れ、腰痛 | 大腿前面、上前腸骨棘と膝蓋骨外上角の連線上。「股関節」の重要穴。 | |
| ST32 | 伏兎 | ふくと | 膝関節痛、下肢の冷え、腰痛 | 大腿前面、膝蓋骨底の上6寸。大腿四頭筋の隆起が「伏せた兎」のように見える。 | |
| ST33 | 陰市 | いんし | 膝関節痛、下肢の痺れ、浮腫 | 大腿前面、膝蓋骨底の上3寸。「陰(内側)の市場」で、気血が集まる場所。 | |
| ST34 | 梁丘 | りょうきゅう | 胃経の郄穴、急性胃痛、膝痛 | 大腿前面、膝蓋骨底の上2寸。胃経の郄穴で、急性疾患、特に急性胃痛の特効穴。 | |
| ST35 | 犢鼻 | とくび | 膝関節痛、膝の腫脹、変形性膝関節症 | 膝蓋靱帯の外側陥凹部。「子牛の鼻」のようなくぼみで、膝疾患の第一選択穴。 | |
| 下腿〜足背 | ST36 | 足三里 | あしさんり | 胃経の合穴、万能のツボ、体力増強 | 犢鼻の下3寸、脛骨前縁の外方1横指。胃経の合土穴で「万能のツボ」。松尾芭蕉も旅に用いた。代田・澤田流の根本治療穴。 |
| ST37 | 上巨虚 | じょうこきょ | 大腸の下合穴、下痢、便秘、腹痛 | 犢鼻の下6寸。大腸の下合穴で、大腸疾患の治療に重要。「上の大きな空虚」の意。 | |
| ST38 | 条口 | じょうこう | 肩こり、下肢痛、膝関節痛 | 犢鼻の下8寸。「条(細長い)口」の意。遠隔治療で肩関節痛に著効。 | |
| ST39 | 下巨虚 | げこきょ | 小腸の下合穴、下痢、腹痛、乳腺炎 | 犢鼻の下9寸。小腸の下合穴で、小腸疾患の治療に用いる。「下の大きな空虚」の意。 | |
| ST40 | 豊隆 | ほうりゅう | 胃経の絡穴、痰湿除去、咳嗽・頭痛 | 犢鼻の下8寸、脛骨前縁の外方2横指。胃経の絡穴で「豊かに隆起」する筋肉部。痰湿除去の第一選択穴。 | |
| ST41 | 解谿 | かいけい | 胃経の経穴、足関節痛、頭痛、めまい | 足関節前面中央の陥凹部。胃経の経火穴で「谷間を解く」意。足関節疾患と頭部症状に有効。 | |
| ST42 | 衝陽 | しょうよう | 胃経の原穴、足背動脈の拍動部、胃痛 | 足背、第2・3中足骨底の間。胃経の原穴で足背動脈拍動部。「陽気が衝く」穴で胃気の状態を診る診断穴。 | |
| ST43 | 陥谷 | かんこく | 胃経の兪穴、顔面浮腫、足背痛 | 足背、第2・3趾間、中足趾節関節の前陥凹部。胃経の兪木穴で「陥った谷」の意。 | |
| ST44 | 内庭 | ないてい | 胃経の滎穴、胃熱による歯痛・口臭 | 足背、第2・3趾間、趾間の縁。胃経の滎水穴で「内なる庭」の意。胃熱を清する重要穴。 | |
| ST45 | 厲兌 | れいだ | 胃経の井穴、悪夢、精神不安、鼻出血 | 第2趾外側、爪甲角の近位外方0.1寸。胃経の井金穴で「鋭く突き出る」意。精神症状と熱証に刺絡する。 |
全45穴の経穴が、頭頸部から足背まで体系的に配列されています。特に**足三里(ST36)**は「万能のツボ」として、**天枢(ST25)**は大腸の募穴として、**豊隆(ST40)**は痰湿除去の要穴として、代田文誌・澤田健の治療体系で重視されています。
足の陽明胃経は以下の順に流れます: