腰方形筋 Musculus quadratus lumborum

J0217 (右の寛骨:筋の起こる所と着く所を示す内側からの図)

J0433 (横隔膜:腹腔からの図)

J0434 (横隔膜:腰部、腹腔からの図)

J0452 (腰部の筋:横断図)

J0490 (腰部の筋:腹側図)

J0491 (右の鼡径部の筋膜:腹側からの図)

J0764 (後腹壁にある男性の泌尿器:前方からの図)

J0764 (後腹壁にある男性の泌尿器:前方からの図)

J0767 (右腎:後方からの図)

J0955 (右側の腰仙骨神経叢:図解)

J0956 (腰仙骨神経叢:前方からの図)
腰方形筋は、腰部深層に位置する四角形の筋肉で、体幹の安定性と側方運動に重要な役割を果たしています。以下に、解剖学的特徴と臨床的意義を詳述します(Bogduk, 2012; Standring, 2015):
解剖学的特徴
- 形状と構造:
- 四角形または長方形の扁平な筋肉で、厚さ約1cm、幅5-7cm、長さ10-12cmです。腰腱膜(胸腰筋膜後葉)の前面に位置し、腰椎の側方を走行します(Clemente, 2010)。
- 筋は後腹壁の深層筋群に属し、大腰筋と並んで腰部の主要な支持構造を形成しています。筋線維は複数の層構造を持ち、機能的に異なる線維束が組み合わさっています(Phillips et al., 2008)。
- 位置関係と解剖学的境界:
- 前方:腎臓、腎筋膜、大腰筋が存在します(Standring, 2015)。
- 後方:脊柱起立筋(主に最長筋)が存在します。
- 内側:腰椎体と横突起、椎間円板に近接しています。
- 外側:腹横筋と内腹斜筋の起始部と境界を接します。
- 上方:第12肋骨と横隔膜の腰部(腰脚)に接します。
- 下方:腸骨稜と腸腰靭帯に付着します。
- 起始(複数の付着点から起こる):
- 腸骨稜内唇の後部約1/3(後上腸骨棘の近位部)
- 腸腰靭帯(腸骨稜と第4または第5腰椎横突起を連結する強靭な線維束)
- 第1〜4腰椎横突起(より正確には肋骨突起)の後面および下縁
- 停止(複数の付着点に停止する):
- 第12肋骨下縁の内側約1/2〜2/3(肋骨角より前方)
- 第1〜4腰椎横突起(肋骨突起)の上縁および前面(交差配列を形成)
- 腸腰靭帯への一部線維の付着
- 筋線維の配列と走行パターン:
- 外側部(腸肋部):腸骨稜から第12肋骨へ垂直に近い角度で上行する最も外側の線維束。この部分は主に側屈運動に関与します(Phillips et al., 2008)。
- 中間部(腸腰椎部):腸骨稜および腸腰靭帯から腰椎横突起へ向かう斜走線維束。扇状に広がる配列を示し、体幹の安定化に重要です。
- 内側部(腰椎間部):隣接する腰椎横突起間を連結する短い線維束。椎間の安定性維持に特化しています。
- これらの線維束は機能的に協調して作用し、荷重伝達と運動制御の両方に貢献します(Bogduk, 2012)。
- 神経支配:
- 主要支配神経:第12肋間神経(T12)と第1〜4腰神経前枝(L1-L4)(Bogduk, 2012)。ただし、主に第1〜3腰神経(L1-L3)が筋の大部分を支配します。
- 分節支配:特にL1とL2は筋全体の約60-70%を支配しており、これらの神経根障害は腰方形筋の機能低下を引き起こす可能性があります。
- 神経枝は筋の前面から侵入し、筋内で広範囲に分枝します。この神経支配パターンは、筋の異なる部分が独立して活性化される可能性を示唆しています(McGill, 2007)。
- 血液供給:
- 動脈供給:主に腰動脈(第1〜4腰動脈)と腸腰動脈の腰枝から血液供給を受けます。これらの動脈は腹大動脈から直接分岐します。
- 静脈還流:対応する腰静脈を経て下大静脈へ還流します。腰静脈叢との豊富な吻合が存在します。
- 追加的な血液供給:第12肋間動脈や深腸骨回旋動脈からも一部の血液供給を受けることがあります(Standring, 2015)。
機能的解剖学
- 運動機能:
- 両側性収縮時:腰椎の安定化、直立姿勢の保持、骨盤と脊柱の前後アライメントの維持に貢献します(McGill, 2007)。特に重量物挙上時や前屈位からの復帰時に重要です。
- 片側性収縮時:脊柱の同側への側屈を生じます。この作用は日常生活動作や多くのスポーツ動作で頻繁に使用されます。
- 呼吸機能:第12肋骨を固定・下方牽引することで、横隔膜の収縮効率を高める補助的な役割を果たします。特に努力呼吸時に活性化されます(Hodges et al., 2005)。
- 歩行時の機能:骨盤の安定化と側方移動の制御に重要です。単脚立位相では、支持側の腰方形筋が骨盤の傾斜を防ぎます(Neumann, 2016)。
- 姿勢維持:長時間の立位や座位において、腰椎の生理的前弯を維持し、体幹の安定性を保つために持続的に活動します。
- 生体力学的特性:
- 腰方形筋は脊柱の側方安定化システムの主要構成要素であり、腹横筋や多裂筋とともに「深層コアスタビライザー」として機能します(McGill, 2007)。
- 筋の解剖学的位置により、腰椎に対して大きなモーメントアームを有し、効率的な側屈力を発揮できます(Phillips et al., 2008)。
- 椎間圧縮力の生成:収縮時に腰椎に圧縮力を加えることで、脊柱の剛性を高め、不安定性を防ぎます。
臨床的意義
- 腰方形筋に関連する臨床病態:
- 診断的評価:
- 治療アプローチ:
- 予防的介入:
腰方形筋は、体幹の安定性と側方運動制御に必須の深層筋であり、良好な姿勢維持と腰部の健康に極めて重要です(McGill, 2007)。解剖学的には複雑な線維配列を持ち、多方向の力の制御に適応しています。臨床的には腰痛の原因となることが非常に多く、特に慢性腰痛患者の約80%で腰方形筋の機能異常が認められるという報告もあります(Travell and Simons, 2019)。そのため、理学療法、手技療法、運動療法の重要なターゲットとなっています。呼吸運動への関与については、横隔膜の支持構造として間接的に貢献すると考えられていますが、主要な呼吸筋ではなく、その寄与の程度については現在も研究が続いています(Hodges et al., 2005)。近年の研究では、腰方形筋の機能不全が他の体幹筋との協調性障害を引き起こし、腰部の安定性を全体的に低下させることが示されています(McGill, 2007)。