腹直筋鞘 Vagina musculi recti abdominis

J0427 (広頚筋を除去した後の右胸部の筋:腹側図)

J0435 (腹筋:右側前方からの図)

J0436 (腹筋、正面からの図)

J0437 (錐体筋:腹面図)

J0438 (腹筋(第2層):腹面図)

J0439 (右の内腹斜筋の腱が腹直筋鞘に移行する図)

J0440 (腹直筋:腹面図)

J0443 (腹筋(第3層):腹面図)

J0573 (腹部前壁の動脈:背面図)

J0783 (開かれた陰嚢:前方からの図)

J0805 (男性の会陰筋:下方からの図)

J0806 (女性の会陰筋:下から見た図)

J0810 (後期妊娠中の右乳腺:乳房筋に対する位置で自由に調整された標本)

J0953 (右側の肋間神経の経路:右側前方からの図)

J0954 (体幹の皮神経:正面右側からの図)
腹直筋鞘は、腹直筋を包む強靭な腱膜性の鞘構造です。腹壁の構造的完全性を維持し、腹圧の調整に重要な役割を果たしています(Standring, 2020)。その解剖学的構造と臨床的意義は以下の通りです:
1. 解剖学的特徴
- 構成:外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の腱膜が複雑に配列・癒合して形成されます。この三層構造が腹壁の強度を確保しています(Moore et al., 2018)。
- 前葉(前壁):腹直筋の前面を覆い、外腹斜筋の腱膜全体と内腹斜筋腱膜の前半部で構成されます。弓状線より下方では全ての腱膜(外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋)が前葉を形成します(Netter, 2019)。
- 後葉(後壁):腹直筋の後面を覆い、臍より上方では内腹斜筋腱膜の後半部と腹横筋腱膜で構成されます。この部分は横筋筋膜と壁側腹膜の間に位置します(Sinnatamby, 2011)。
- 弓状線(線状半月線、Douglas線):後葉が欠如し始める境界線で、通常は臍輪から4〜6cm下方に位置します。この線より下方では、全ての腱膜が腹直筋の前面を通過するため、後葉は腹横筋筋膜と壁側腹膜のみとなります(Loukas et al., 2016)。
- 白線(linea alba):左右の腹直筋鞘が正中で癒合する部分で、剣状突起から恥骨結合まで走行します。特に臍輪の上方では幅広くなっています(Drake et al., 2015)。
2. 臨床的意義
- 腹壁ヘルニア:腹直筋鞘の構造的弱点(特に弓状線より下方)が、腹壁ヘルニアの好発部位となります(Kingsnorth and LeBlanc, 2003)。
- TRAM皮弁:乳房再建時に腹直筋皮弁を使用する手術では、腹直筋鞘の解剖学的理解が不可欠です(Nahabedian, 2018)。
- 腹直筋血腫:腹直筋を栄養する上・下腹壁動脈の損傷により生じ、腹直筋鞘内に限局した血腫を形成します。特に抗凝固療法中の患者や高齢者で発症リスクが高まります(Hatjipetrou et al., 2005)。
- 手術アプローチ:腹部手術時の切開法選択(正中切開、傍正中切開など)では腹直筋鞘の構造を考慮します(Skandalakis et al., 2009)。
腹直筋鞘は単なる解剖学的構造ではなく、腹腔内圧の維持、腹部臓器の保護、体幹の安定性確保など、多機能的な役割を担っています(Ellis et al., 2010)。その詳細な理解は、腹部外科手術や腹部疾患の診断・治療において極めて重要です。
3. 参考文献
- Drake, R.L., Vogl, A.W. and Mitchell, A.W.M. (2015) Gray's Anatomy for Students. 3rd ed. Philadelphia: Churchill Livingstone. — 医学生向けの解剖学教科書で、腹直筋鞘の基本構造と発生学的背景を詳細に解説している。
- Ellis, H., Mahadevan, V. and Norton, C. (2010) Clinical Anatomy: Applied Anatomy for Students and Junior Doctors. 12th ed. Oxford: Wiley-Blackwell. — 臨床応用を重視した解剖学書で、腹直筋鞘の外科的重要性について実践的な知見を提供している。
- Hatjipetrou, A., Anyfantakis, D. and Kastanakis, M. (2005) 'Rectus sheath hematoma: a review of the literature', International Journal of Surgery, 13(4), pp. 267-271. — 腹直筋鞘血腫の病態、診断、治療に関する包括的なレビュー論文。
- Kingsnorth, A. and LeBlanc, K. (2003) 'Hernias: inguinal and incisional', The Lancet, 362(9395), pp. 1561-1571. — ヘルニアの病態生理と最新の治療法について概説した総説論文。