僧帽筋 Musculus trapezius
僧帽筋は、解剖学的および機能的に重要な特徴を持つ筋肉です (Standring, 2021)。以下にその詳細を説明します。
解剖学的特徴
- 位置:背部第1層に位置し、両側で合わせると僧衣に似た台形(菱形)を形成し、背部上半部を広く被覆します (Moore et al., 2019)。
- 構造:筋線維の走行方向により、以下の3つの部分に分類されます (Gray and Lewis, 2020)。
- 上部線維(下行部):下外側に向かって下行します。
- 中部線維(横行部):水平に外側へ走行します。
- 下部線維(上行部):上外側に向かって上行します。
- 付着部:
- 起始:後頭骨外後頭隆起と最上項線の内側1/3、項靱帯、C7-T12の棘突起および棘上・棘間靱帯です (Netter, 2023)。
- 停止:鎖骨外側1/3の後縁、肩峰外側縁、肩甲棘上縁全長です。
- 支配神経:
- 副神経(CN XI)の脊髄根からの支配を受けます (Drake et al., 2020)。
- 頚神経叢(C3-C4)からの交通枝が分布します。
- 血液供給:
- 後頭動脈の枝による栄養を受けます。
- 浅頚動脈の枝が分布します。
- 横頚動脈の枝が分布します。
機能
- 肩甲骨の位置と運動の制御 (Cleland et al., 2022):
- 上部:肩甲骨の挙上と上方回転を行います。
- 中部:肩甲骨の内転を担います。
- 下部:肩甲骨の下制と上方回転を行います。
- 両側同時収縮時には、頭部の後屈および回旋を行います。
臨床的意義
僧帽筋の機能障害は、以下のような症状をもたらします (Jull et al., 2019):
- 副神経麻痺により、肩甲骨の異常な位置(肩甲骨外側下方偏位)が生じます。
- 肩関節の可動域制限、特に外転制限が起こります。
- 頚部・肩甲帯の慢性疼痛症候群の好発部位となります。
- ストレスや姿勢異常により、筋緊張亢進(いわゆる肩こり)の主要部位となります。
参考文献
- Cleland, J., Koppenhaver, S. and Su, J. (2022) Netter's Orthopaedic Clinical Examination: An Evidence-Based Approach, 4th Edition. Elsevier.
- Drake, R.L., Vogl, W. and Mitchell, A.W.M. (2020) Gray's Anatomy for Students, 4th Edition. Elsevier.