尾骨 Os coccygis [Vertebrae coccygeae I-IV]
尾骨は、脊柱の最下端に位置する三角形の小さな骨で、ヒトの退化した尾の名残です。通常、成人では長さ約2.5cmほどです(Standring, 2016)。尾骨は骨盤底の重要な支持構造であり、臨床的にも重要な解剖学的構造です。

J0134 (仙骨と尾骨:右側からの図)

J0135 (尾骨:前方からの図)
J0136 (尾骨:後方からの図)

J0137 (各種の椎骨と椎骨の破格を集めて、個々のピースの形態学的価値を示します(Quainによる))

J0158 (8ヶ月胎児の仙骨と尾骨:前方からの図)

J0294 (仙骨と尾骨の間の靱帯:後ろからの図)

J0326 (右側の骨盤の靱帯:後方からの図)

J0492 (右側の骨盤の筋:内側からの図)

J0493 (右骨盤の筋:外側から遠位の図)

J0797 (女性の骨盤臓器の正中矢状断面:左側からの右半分の図)

J0805 (男性の会陰筋:下方からの図)

J0827 (脊椎管内の被鞘と下部脊髄端、背面からの図)
解剖学的構造
骨の構成と形態
- 尾骨は3〜5個(通常は4個)の退化した尾椎が融合して形成されており、上方が広く下方に向かって狭くなる三角形状を呈します(Moore et al., 2018)。各尾椎の大きさは上位から下位に向かって徐々に縮小します。
- 第1尾椎は最も大きく、左右に短い横突起(cornua coccygea)が突出しています。これらの横突起は仙骨の下角(sacral cornua)と靱帯で結合し、仙尾関節の安定性に寄与します(Netter, 2019)。
- 尾骨角(cornu coccygeum)は、第1尾椎の横突起の基部から上関節突起が後上方に突出して形成される構造で、仙骨角と仙尾靱帯(ligamentum sacrococcygeum)で連結されています。この連結は尾骨の可動性と安定性の両方に関与します(Gray and Standring, 2016)。
- 第2尾椎以下は徐々に小さくなり、椎体に相当する部分が痕跡的に連なるのみで、神経弓や突起はほとんど存在しません。最下位の尾椎はしばしば小さな結節状の構造として認められます(Drake et al., 2020)。
発生学
- 発生学的には、胎児期に9つの尾椎原基が存在しますが、成長に伴い下方から退化・吸収され、最終的に3〜5個の尾椎のみが残ります。この退化過程はアポトーシス(プログラム細胞死)によって制御されています(Sadler, 2019)。
- 胎児期および小児期では、各尾椎は独立した骨化中心を持ちますが、思春期後期から成人期にかけて徐々に骨性癒合が進行します。完全な癒合の時期と程度には個人差があります(Moore et al., 2018)。
関節構造
- 尾骨と仙骨の間には仙尾関節(articulatio sacrococcygea)が存在します。この関節は線維軟骨性の椎間円板様構造を持ち、わずかな可動性を有します(Bogduk, 2012)。
- 仙尾関節は加齢とともに骨性癒合が進むことが多く、特に女性よりも男性でより早期に癒合する傾向があります。しかし、完全に癒合しない症例も少なくありません(Postacchini et al., 1983)。
- 分娩時には、仙尾関節の可動性が重要な役割を果たします。胎児の通過を容易にするため、尾骨は後方に約30度程度屈曲することができます(Vleeming et al., 2012)。
靱帯と筋肉の付着部
靱帯構造
- 前仙尾靱帯(ligamentum sacrococcygeum anterius):仙骨前面から尾骨前面に伸びる強靱な靱帯で、仙尾関節の前方安定性を提供します(Willard et al., 2012)。
- 後仙尾靱帯(ligamentum sacrococcygeum posterius):浅層と深層に分かれ、仙骨後面から尾骨後面に伸びます。深層は黄色靱帯の延長と考えられています(Bogduk, 2012)。