近位 Proximalis
近位(きんい、Proximalis、Proximal)とは、解剖学における方向を示す重要な用語で、ある構造物や部位が体幹または付着部位により近い位置にあることを表します(Moore et al., 2018)。これは遠位(Distalis、Distal)の対義語として使用されます。

J0003 (大人の新鮮な右大腿骨の近位部、前方からの図)

J0004 (大人の新鮮な右大腿骨の近位部:前方からの後半部の前頭断図)

J0006 (大人の浸出された右大腿骨の近位端:前頭断面)

J0007 (成人の右大腿骨:腹面からの透視図)

J0008 (成人の浸出された右脛骨の遠位部分:前頭断図)

J0019 (右の踵骨:外側からの矢状断図)
解剖学的定義
四肢においては、体幹に近い部分を近位と呼びます(Standring, 2020)。例えば、上肢では肩関節に近い部分、下肢では股関節に近い部分が近位となります。具体的には:
- 上腕は前腕に対して近位に位置する
- 大腿は下腿に対して近位に位置する
- 手根骨は中手骨に対して近位に位置する
骨の部位を示す際にも頻繁に使用され、「大腿骨近位端」は股関節に近い大腿骨の端部(大腿骨頭、大腿骨頸部、大転子、小転子を含む領域)を指します(Netter, 2018)。
臨床的意義
近位という用語は臨床医学において極めて重要で、以下のような場面で使用されます:
- 骨折の記述:「上腕骨近位端骨折」「大腿骨近位部骨折」など、骨折部位を正確に記述する際に使用されます(Rockwood et al., 2015)。特に大腿骨近位部骨折は高齢者に多く、手術適応となることが多い重要な骨折です。
- 血管系の記述:「冠動脈近位部閉塞」など、血管の閉塞部位や病変の位置を示す際に使用されます(Libby et al., 2021)。近位部の閉塞はより広範囲の虚血を引き起こすため、臨床的により重大です。
- **神経系の記述:**神経損傷の部位を示す際、「正中神経近位部損傷」のように使用され、損傷部位により症状が異なるため正確な記述が必要です(Spinner, 2017)。
- 筋力評価:「近位筋力低下」は体幹に近い筋群(肩甲帯筋、骨盤帯筋など)の筋力低下を示し、多発性筋炎や筋ジストロフィーなどの筋疾患で特徴的に見られます(Dalakas and Hohlfeld, 2003)。
- 腫瘍の記述:「近位大腸癌」など、消化管における腫瘍の位置を示す際にも使用されます(Benson et al., 2020)。
このように、近位という概念は解剖学的構造の理解だけでなく、疾患の診断、治療計画の立案、予後の判断において不可欠な用語です。医学教育においても、解剖学的方向用語の正確な理解と使用は、医療コミュニケーションの基礎として重視されています(Drake et al., 2019)。
参考文献
- Benson, A.B., Venook, A.P., Al-Hawary, M.M., et al. (2020). NCCN Guidelines Insights: Colon Cancer, Version 2.2018. Journal of the National Comprehensive Cancer Network, 18(3), 205-230.―大腸癌の診断・治療に関する包括的ガイドライン。腫瘍の解剖学的位置記述の重要性について解説。
- Dalakas, M.C. and Hohlfeld, R. (2003). Polymyositis and dermatomyositis. The Lancet, 362(9388), 971-982.―多発性筋炎における近位筋力低下の臨床的特徴について詳述した総説論文。