上大静脈

上大静脈は、上半身からの血液を集める主要な静脈です。その主な特徴は以下の通りです:

上大静脈の主な役割は、上半身からの脱酸素化血液を右心房へ運搬することです。

解剖学的には、通常、左腕頭静脈が上行大動脈の前方を右下方へ走行し、右腕頭静脈と合流して上大静脈を形成します。その後、上大静脈は上行大動脈の右後方を下降し、奇静脈からの血液を受け入れてから右心房に開口します。

上大静脈には変異が存在し、最も知られているのは左上大静脈遺残(重複上大静脈)です。これは通常の右側に加えて左側にも上大静脈が存在する状態を指します。この変異の出現頻度は成人では0.27%、胎児と新生児では1.6%と報告されています。

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J0609 (頚部の深部静脈:右側からの図)

『日本人のからだ(大久保真人 2000)』によると

正常な場合、左腕頭静脈は上行大動脈の前を右下方に向かって通過し、右腕頭静脈と合流して上大静脈を形成します。上大静脈は上行大動脈の右後側を下行し、奇静脈を受け入れた後に右心房に開口します。上大静脈の異常としては、右側に加えて左側にも上大静脈が出現する左上大静脈遺残(重複上大静脈)があります。この異常は、下大静脈と同様に、発生学的に主静脈と主下静脈が時期を変えて対称的(左右)に出現し、部分的な吻合と消失が伴いながら発生するものと考えられています。したがって、上大静脈の異常、下大静脈の異常、奇静脈の異常は相互に関連していると考えられますが、現在のところその解析はまだ行われていません。また、上大静脈の起源である腕頭静脈にも変異が見られます。

左上大静脈遺残(重複上大静脈)では、左右の腕頭静脈がそれぞれ独立して直接右心房に開口します。その際、両者の間に交通枝が存在する場合があります(通常の左腕頭静脈に相当します)。これらの例では、右腕頭静脈は正常と同様に上大静脈と同じ経路をたどって右心房に開口します。一方、左腕頭静脈は肺動脈の左後側から肺根の前を通り、心臓の冠状溝に達し、心臓の後面を冠状溝に沿って右方に進み、右心房に開口します。その出現頻度は成人では0.27%(Adachi, 1933)、胎児と新生児では1.6%(山田,1934 a)です。左上大静脈遺残は多くの場合、心臓の異常を伴い、重篤な場合には16歳以下で死亡することが多いと言われています(山鳥・高嶋, 1966)。そのため、胎児や新生児では成人よりも症例の出現頻度が高いと考えられます。

左上大静脈遺残の分類法にはいくつかありますが、どれも左右の上大静脈やその間の交通枝(または左腕頭静脈)の発達程度の多様性に基づく組み合わせであり、必ずしも基準が一致しているわけではありません。欧米では、McCotter(1916)、Donadio(1925)、Nandy and Blair(1965)の分類が知られています。日本では、各静脈の発達程度の差異に加え、交通枝(または腕頭静脈)の方向性にも注目した分類法が提唱されています。

山鳥・高嶋(1966)は、吻合枝の有無によって大別し、上大静脈の発達程度の差異によってさらに細分類を試みました。続いて、Fujimoto et al.(1972)はこの基準を基に、吻合枝を太いもの、細いもの、ないものの3つに分類しました。さらに、竹之下(1986)は左上大静脈が右心房に開口していることを前提として、以下のようにI-IV型の4つに大別しました。

I型:左右の上大静脈間に交通枝がないもの。

II型:交通枝が水平なもの。

III型:交通枝が左上方から右下方に傾いているもの。