下肢の動脈 Arteriae membri inferioris

J0598 (右大腿表層の動脈:腹面図)

J0599 (右大腿深層部の動脈:前面からの図)

J0600 (右大腿の動脈、背面図)

J0601 (右下腿の動脈:背側からの図)

J0602 (右下肢の動脈:前方からの図)

J0603 (右足背の動脈)

J0604 (右足底の動脈)
下肢の動脈(arteries of the lower limb)は、腹部大動脈→総腸骨動脈→外腸骨動脈→大腿動脈→膝窩動脈→下腿三分枝(前脛骨・後脛骨・腓骨)→足背・足底の動脈弓として連続し、歩行・起立に必要な大きな血流需要に対応する。下肢では、筋区画(compartment)と筋間中隔、腱膜・骨間膜、靱帯(例:鼠径靱帯、ヒラメ筋腱弓)が、血管走行と絞扼・損傷パターンを規定するため、層とトンネルで理解すると臨床に直結する。(Standring, 2021)(Moore et al., 2023)
1. 概要(系統と機能)
- 近位側の供給:腹部大動脈の分岐である総腸骨動脈(a. iliaca communis)から外腸骨動脈(a. iliaca externa)が続き、鼠径靱帯(lig. inguinale)下で**大腿動脈(a. femoralis)**となる。(Standring, 2021)
- 主要幹:大腿動脈は大腿三角(trigonum femorale)から内転筋管(canalis adductorius)を経て、内転筋裂孔(hiatus adductorius)を通過して**膝窩動脈(a. poplitea)**へ移行する。(Moore et al., 2023)
- 遠位側の供給:膝窩動脈は下腿で**前脛骨動脈(a. tibialis anterior)と後脛骨動脈(a. tibialis posterior)**に分かれ、腓骨動脈(a. fibularis/peronea)は通常後脛骨動脈から分岐して外側区画へ血流を供給する。(Standring, 2021)
- 足部の動脈弓:前脛骨動脈は足背動脈(a. dorsalis pedis)となり、後脛骨動脈は内果後方で足底動脈(aa. plantares medialis et lateralis)へ分岐し、外側足底動脈が**足底動脈弓(arcus plantaris profundus)**を形成して趾へ分布する。(Standring, 2021)
2. 起始・走行と主要分枝(浅層→深層の“地図”)
2.1 外腸骨動脈 → 大腿動脈(鼠径靱帯下)
- ランドマーク:鼠径靱帯直下で、大腿動静脈は一般に NAVEL(外側→内側:大腿神経 N、動脈 A、静脈 V、リンパ L)で並ぶ。大腿動脈は大腿神経より内側に位置し、穿刺・止血の基準になる。(Moore et al., 2023)
- 代表分枝:深大腿動脈(a. profunda femoris)が近位で分岐し、外側・内側大腿回旋動脈(aa. circumflexae femoris lateralis et medialis)および穿通動脈(aa. perforantes)を介して大腿筋群と股関節周囲を灌流する。(Standring, 2021)
2.2 内転筋管 → 膝窩動脈(内転筋裂孔後)
- 内転筋管(Hunter 管):縫工筋(m. sartorius)下を通る筋膜性トンネルで、動脈は静脈と伴走し、伏在神経(n. saphenus)と関係する。裂孔通過後、動脈は膝窩窩の深部(膝窩筋・関節包近傍)を走るため、膝窩部外傷・膝窩動脈捕捉(PAES)の評価で重要となる。(Standring, 2021)(Rutherford, 2019)
- 膝窩動脈の分枝:膝周囲の膝動脈網(genicular anastomosis)を形成する上内側・上外側膝動脈、下内側・下外側膝動脈などを出し、膝屈伸や閉塞時の側副血行路に寄与する。(Standring, 2021)
2.3 下腿三分枝(膝窩動脈終末)
- 前脛骨動脈:脛骨後面近傍から骨間膜上部の開口を通って前区画へ入り、前脛骨筋群と深腓骨神経(n. fibularis profundus)と伴走し、足背動脈へ続く。前区画はコンパートメント症候群で圧が上がりやすく、脈拍触知が鑑別に有用。(Moore et al., 2023)(Rutherford, 2019)
- 後脛骨動脈:深後区画で脛骨神経(n. tibialis)と伴走し、内果後方で屈筋支帯(retinaculum musculorum flexorum)下を通過して足底へ分岐する。ここは**足根管(tarsal tunnel)**として神経絞扼が有名だが、血管も同部で外傷・血管炎・瘤の影響を受ける。(Standring, 2021)(Moore et al., 2023)
- 腓骨動脈:通常、後脛骨動脈近位から分岐し、長母趾屈筋など深後区画の外側を下行して外果周囲の穿通枝を介し足背・足底の吻合に関与する。腓骨動脈が発達し、後脛骨動脈が低形成の場合があり、足部血行再建や遊離皮弁(腓骨皮弁など)で術前評価が重要となる。(Standring, 2021)(Rutherford, 2019)
3. 隣接構造(神経・静脈・リンパ)と“損傷しやすい点”