後三半規管 Canalis semicircularis posterior
後三半規管は、内耳にある3つの半規管の1つで、平衡覚と空間認識に不可欠な解剖学的構造です(Gray and Williams, 2020)。以下にその詳細な特徴と臨床的意義を示します:
解剖学的特徴
- 最も下方に位置する半規管で、後方かつやや下方に向かって弧を描いています(Netter, 2018)
- 錐体軸に対してほぼ平行に位置し、約20mmの長さを持つ管状構造です(Standring, 2021)
- 内径約0.8mm、外径約1.6mmの細い管腔を形成しています(Moore et al., 2019)
- 垂直面内(矢状面に近い)に配置され、この平面における頭部の回転運動を主に検知します
- 両端は前庭に開口し、一方は単独の脚(単脚)として、他方は前半規管と共有する共通脚(総脚)として連絡しています(Schuknecht, 2019)
- 内部には内リンパ液で満たされた膜性後半規管が浮遊しており、その周囲は外リンパ液で満たされています
機能と生理学
後三半規管内の膜迷路には感覚上皮を持つ膨大部があり、ここには有毛細胞が配置されています。頭部が矢状面で回転すると、内リンパ液の慣性により有毛細胞が刺激され、前庭神経を介して脳に信号が伝達されます(Khan and Chang, 2018)。これにより:
- 矢状面(前後方向)における回転加速度を主に検知します
- 姿勢反射や眼球運動の調節に関与し、視覚情報と統合されて空間における身体の位置感覚を維持します(Brandt and Strupp, 2021)
臨床的意義
- 良性発作性頭位めまい症(BPPV):後半規管は最も一般的なBPPVの発生部位で、耳石器官から剥離した耳石が後半規管に迷入することで回転性めまいを引き起こします(Bhattacharyya et al., 2017)
- 前庭神経炎:炎症により前庭神経の機能が低下し、半規管からの情報伝達が障害されると、回転性めまいや平衡障害が生じます
- メニエール病:内リンパ液の過剰産生や吸収障害により内リンパ水腫が生じ、めまい発作や聴力低下を引き起こします(Nakashima et al., 2016)
- 先天性内耳奇形:後半規管の形成異常は、小児の平衡障害や運動発達遅延の原因となることがあります(Agarwal et al., 2018)
発生学
後三半規管は胎生期の耳胞から発生し、約5週目から形成が始まります(Carlson, 2019)。初期の発生段階で適切に形成されないと、先天性前庭機能障害につながる可能性があります。