長脚(キヌタ骨の)Crus longum incudis
解剖学的特徴
- 位置と方向性: ツチ骨柄の後方に位置し、キヌタ骨体部から鼓室腔内をほぼ垂直に下方へ約2.5〜3.0mm伸びています(Gray and Carter, 2016)
- 形態: 細長い棒状で、わずかに湾曲しており、断面は楕円形を呈します(Møller, 2020)
- 先端構造: 遠位端には豆状の突起(レンズ状突起、processus lenticularis)があり、直径約1mmの関節面を持ちます(Seo et al., 2019)
- 関節: この豆状突起はアブミ骨頭と鞍状関節(キヌタ・アブミ関節、incudostapedial joint)を形成します(Merchant and Rosowski, 2022)
- 血液供給: 主に顔面神経管に沿って走行する前鼓室動脈の分枝により栄養されています(Gulya et al., 2020)
キヌタ骨の長脚は、耳小骨連鎖において音波エネルギーをツチ骨からアブミ骨へと伝達する重要な役割を担っています(Merchant and Rosowski, 2022)。この構造により、鼓膜からの振動は約22倍に増幅されて内耳へと効率的に伝えられます。
臨床的意義
- 耳硬化症: アブミ骨の固着により、キヌタ骨長脚とアブミ骨頭との関節部の機能不全を引き起こし、伝音難聴の原因となります(Gulya et al., 2020)
- 中耳炎: 慢性中耳炎において、長期的な炎症によりキヌタ骨長脚の骨吸収や壊死が生じることがあります(Fisch and May, 2018)
- 耳小骨連鎖再建術: 伝音難聴の治療において、損傷したキヌタ骨長脚の再建や人工耳小骨による置換が行われることがあります(Fisch and May, 2018)
- 外傷: 側頭骨骨折により耳小骨連鎖、特にキヌタ・アブミ関節の離断が生じることがあり、急性の伝音難聴の原因となります(Gulya et al., 2020)
キヌタ骨長脚は微細な構造ですが、聴覚機能において中心的な役割を果たしており、その異常は聴力に重大な影響を及ぼします(Møller, 2020)。中耳手術において、この構造の適切な評価と取り扱いは良好な聴力予後を得るために不可欠です。
参考文献
書籍
- Gray, H. and Carter, H.V. (2016) Gray's Anatomy: The Anatomical Basis of Clinical Practice, 41st ed. Elsevier. — 耳小骨の詳細な解剖学的記述と図解が含まれる標準的な医学参考書
- Gulya, A.J., Minor, L.B. and Poe, D.S. (2020) Glasscock-Shambaugh's Surgery of the Ear, 7th ed. People's Medical Publishing House. — 耳小骨の外科的処置と臨床的意義に関する包括的な情報を提供
- Møller, A.R. (2020) Hearing: Anatomy, Physiology, and Disorders of the Auditory System, 4th ed. Academic Press. — 聴覚系の機能と病理に関する最新の研究を集約
雑誌論文