網嚢 Bursa omentalis

解剖学的構造

網嚢(おもうのう)は、小腹嚢(しょうふくのう)とも呼ばれ、後腹膜腔と腹膜によって形成される特殊な腹膜腔です(Gray and Standring, 2021)。解剖学的には、胃の後方、肝臓の尾状葉と膵臓の前方、そして横行結腸間膜の上方に位置しています。網嚢は胃肝間膜(小網膜)と大網膜によって前方が覆われており、後方は膵臓、左腎臓、左副腎の前面に接しています。

網嚢孔

網嚢への入口は網嚢孔(Foramen epiploicum、Winslow孔)と呼ばれ、肝十二指腸間膜の後方に位置します(Netter, 2023)。この孔は約3cmの大きさで、前方に肝十二指腸間膜(総胆管、門脈、肝動脈を含む)、後方に下大静脈、上方に尾状突起、下方に十二指腸上部が位置しています。

臨床的意義

臨床的意義として、網嚢は腹部外傷や炎症性疾患において重要です(Townsend et al., 2022)。特に急性膵炎では、膵液や炎症性滲出液が網嚢内に貯留し、網嚢膿瘍を形成することがあります。また、胃穿孔や十二指腸潰瘍穿孔の際には、胃内容物や消化液が網嚢内に流入することがあり、限局性腹膜炎の原因となります。腹部超音波検査やCTスキャンにおいて、網嚢内の液体貯留は病態の診断に重要な所見となります(Yamada et al., 2020)。

外科的考慮

外科的処置においては、膵臓手術や胃後壁の手術の際にしばしば網嚢が開放されます(Cameron and Cameron, 2022)。特に膵頭十二指腸切除術(Whipple手術)では、網嚢を開放して膵頭部へのアクセスを確保することが標準的手技となっています。また、網嚢開窓術は、膵仮性嚢胞のドレナージ法として用いられることがあります。

参考文献

J716.png

J0716 (脾臓と腹膜:前方から少し右側からの図)

J719.png

J0719 (腸間膜の屈曲:前方から見た図)

J720.png

J0720 (大腸と腸間膜の根:前方からの図)

J722.png

J0722 (網嚢:前から開けられた図)

J723.png

J0723 (肝臓を引き上げたときの網嚢への入口)

J727.png

J0727 (男性の正中矢状断での腹膜の経過:赤色、やや模式的に示している)