解剖学的構造と位置
総胆管は、肝外胆道系の最終部分であり、肝管と胆嚢管が合流する点から十二指腸下行部の内側面に至る、長さ6~8cmの管です(Gray and Standring, 2021)。解剖学的位置関係として、肝十二指腸間膜内を走行し、前方から順に肝固有動脈、門脈、総胆管(HAP配列)と配置されています。膵頭部の後面を通過する際に膵実質に埋没することがあり(膵内胆管)、この部位で膵管と合流します(Nagral et al., 2018)。画像診断上、MRCP(磁気共鳴胆管膵管造影)では総胆管の正常径は6mm以下とされ、加齢により拡張することがあります(Peng et al., 2020)。
臨床的意義
この解剖学的関係から、膵頭部癌が進展すると総胆管が圧迫・浸潤され、閉塞性黄疸を引き起こします(Hijioka et al., 2022)。また、胆石が総胆管内に嵌頓すると、閉塞性黄疸だけでなく、膵液の流出も妨げられ急性膵炎を併発することがあります(Wang et al., 2019)。臨床的には、閉塞性黄疸により総ビリルビン値(特に直接ビリルビン)の上昇、尿の着色、灰白色便、皮膚・粘膜の黄染を認めます(Roche and Stillman, 2023)。
組織学的特徴
組織学的には、総胆管は膵管と合流する部分で胆膵管膨大部(Ampulla of Vater)を形成し、大十二指腸乳頭(十二指腸下行部内側壁)から十二指腸に開口します(Mills, 2020)。管腔内面は単層円柱上皮で覆われ、粘膜固有層には小さな胆管粘液腺(Glands of Luschka)が散在し、胆汁の粘性を調整しています。胆管上皮細胞は活発な吸収・分泌機能を持ち、肝細胞で産生された胆汁の組成を修飾します(Tabibian et al., 2017)。病理学的には、この上皮細胞が悪性化すると胆管癌(特に遠位胆管癌)が発生し、閉塞性黄疸を呈します。また、原発性硬化性胆管炎では、胆管上皮の慢性炎症と線維化により管腔狭窄を来たします(Karlsen et al., 2023)。
括約筋系と機能
筋層構造は内輪筋と外斜筋から成り、特に総胆管の終末部(十二指腸に近い部分)では輪走筋が発達し、総胆管括約筋(Sphincter of Boyden)を形成します(Li et al., 2018)。さらに、胆膵管膨大部には胆膵管膨大部括約筋が発達し、これはオッディーの括約筋(Sphincter of Oddi)として知られています。この括約筋複合体は、神経支配とホルモン調節により胆汁と膵液の十二指腸への流出を精密に制御しています(Toouli, 2018)。オッディ括約筋機能不全は臨床的に胆道系の機能性疾患として認識され、内視鏡的乳頭括約筋切開術(EST)の適応となることがあります。また、総胆管結石の内視鏡的除去術では、このオッディ括約筋を切開し、バスケットカテーテルや各種バルーンを用いて結石を摘出します(Cotton et al., 2019)。
神経・内分泌調節
神経・内分泌学的には、総胆管と括約筋系は自律神経(交感神経と副交感神経)の二重支配を受けています(Talmage and Mawe, 2021)。交感神経は主にT7-T10レベルの脊髄から大内臓神経を経て腹腔神経叢に至り、副交感神経は迷走神経を介して支配されています。副交感神経刺激は括約筋を弛緩させ胆汁排出を促進し、交感神経刺激は括約筋を収縮させ胆汁排出を抑制します(Nakeeb, 2022)。また、消化管ホルモンのコレシストキニン(CCK)は、食事摂取後に小腸から分泌され、括約筋を弛緩させると同時に胆嚢を収縮させることで胆汁の十二指腸への放出を促進します。セクレチンは膵液分泌を刺激すると同時に、胆汁の重炭酸塩濃度を上昇させます(Scarpignato and Varga, 2020)。これらの複雑な調節機構により、食事のタイミングに合わせた胆汁と膵液の適切な放出が確保されています。薬理学的には、コリン作動薬(ネオスチグミンなど)は括約筋を弛緩させ胆汁排出を促進し、抗コリン薬(アトロピンなど)は括約筋を収縮させて胆汁排出を抑制します(Huh et al., 2019)。
参考文献