大腸 Intestinum crassum

J0700 (回盲部:盲腸は拡張、後方からの図)

J0701 (回盲部:盲腸は収縮)

J0702 (回盲部:虫垂は伸ばされ、前部の位置で部分的に開いた図)

J0703 (回盲部の断面、大腸弁:正面からの図)
1. 解剖学的概要
大腸は消化管の最終部分で、回盲弁から肛門までを指します(Moore et al., 2018)。解剖学的には、回腸末端から連続し、右腸骨窩から始まり、腹腔内で逆U字形をなす消化管です(Standring, 2021)。日本人の場合、男性の平均大腸の長さは161cm、女性は158cmです(村上, 2000)。大腸は構造的に盲腸(cecum)、上行結腸(ascending colon)、横行結腸(transverse colon)、下行結腸(descending colon)、S状結腸(sigmoid colon)、直腸(rectum)に区分されます(Gray and Standring, 2016)。
臨床的には、これらの区分は内視鏡検査や手術時の位置決めに重要です(Standring, 2021)。大腸の血管支配は上腸間膜動脈と下腸間膜動脈によって行われ、静脈還流は門脈系を経由します(Moore et al., 2018)。神経支配は自律神経系により制御され、副交感神経は迷走神経(横行結腸の脾彎曲まで)と骨盤内臓神経(下行結腸以降)が担当し、交感神経は上・下腸間膜神経叢を介して作用します(Hall, 2021)。
2. 小腸との解剖学的・組織学的差異
小腸と大腸(結腸)の解剖学的・組織学的差異は以下の通りです(Ross and Pawlina, 2016; Standring, 2021):
- ①可動性:小腸(十二指腸を除く)は広範な可動性を持ちますが、大腸では横行結腸とS状結腸のみが腸間膜を有し、有意な可動性を示します(Moore et al., 2018)。上行結腸と下行結腸は後腹膜に固定されています(Standring, 2021)。この特性は腸捻転や腸閉塞の好発部位に関連します。
- ②太さ:大腸は小腸より明らかに太く、内径は平均5-7cmです(Netter, 2019)。盲腸が最も太く(約7.5cm)、直腸S状部移行部に向かって次第に狭くなります(Standring, 2021)。この特徴は内視鏡挿入時の目安となります。
- ③筋層構造:小腸の縦走筋は腸管全周に均等に分布していますが、大腸では虫垂を除き3本の結腸ヒモ(taeniae coli)に集束し、他の部分では縦走筋が薄くなっています(Ross and Pawlina, 2016)。結腸ヒモは自由ヒモ(taenia libera)、腸間膜ヒモ(taenia mesocolica)、網ヒモ(taenia omentalis)の3つから成ります(Gray and Standring, 2016)。このヒモが短いため、腸壁が袋状に突出します。
- ④結腸隆起(haustra):結腸ヒモによる牽引で形成される特徴的な袋状の膨隆で、半月ヒダ(plicae semilunares)によって区切られています(Standring, 2021)。X線やCT検査での大腸識別に有用です(Netter, 2019)。結腸隆起は機能的な構造で、収縮状態によって形状が変化します(Moore et al., 2018)。
- ⑤腹膜垂(appendices epiploicae):漿膜に覆われた脂肪小体が大腸外表面に付着しており、特に横行結腸とS状結腸で顕著です(Gray and Standring, 2016)。腹腔鏡手術での大腸識別マーカーとなります。腹膜垂の炎症(appendagitis)は急性腹症の原因となることがあります(Moore et al., 2018)。
- ⑥粘膜構造:結腸粘膜には小腸に見られる輪状ヒダ(plicae circulares)や絨毛(villi)がなく、平滑な表面を呈します(Ross and Pawlina, 2016)。代わりに多数の腸腺(Lieberkühn腺、intestinal glands)が存在し、杯細胞(goblet cells)が豊富で粘液産生に関与します(Young et al., 2020)。粘液は糞便の移動を促進し、腸壁を保護します(Barrett et al., 2019)。
3. 生理学的機能
生理学的機能として、小腸で消化・吸収された食物残渣は半流動状態(約1500mL/日)で回腸から盲腸に入ります(Hall, 2021)。大腸では主に水分(1日約1.5L)と電解質(特にナトリウムとカリウム)が能動輸送により吸収され、約150mLの糞便が形成されます(Barrett et al., 2019)。
大腸には約10¹⁴個の腸内細菌が存在し、腸内細菌叢(gut microbiota)を形成しています(Hall, 2021)。これらの細菌は食物繊維などの難消化性炭水化物を発酵させ、短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸)を産生します(Barrett et al., 2019)。また、ビタミンK、ビタミンB12、チアミン、リボフラビンなどのビタミン合成も行います(Hall, 2021)。
結腸粘膜から分泌される粘液(1日約200mL)が混合され、固形の糞便が形成されます(Barrett et al., 2019)。大腸の運動には、分節性収縮(segmental contractions)と集団蠕動(mass movements)があり、後者は1日に数回発生し、糞便を遠位結腸へ推進します(Hall, 2021)。蠕動運動により糞便は肛門側へ運ばれ、通常はS状結腸から直腸S状部移行部(直腸膨大部の手前)に一時的に貯留されます(Moore et al., 2018)。
臨床的には、この部位より口側での腫瘍性閉塞は慢性的な症状(便秘、腹部膨満、体重減少)を呈することが多く、より肛門側での閉塞は急性症状(激しい腹痛、嘔吐、腹部膨満)を呈することがあります(Standring, 2021)。大腸は解剖学的には盲腸から肛門管までの全区間を指します(Gray and Standring, 2016)。
4. 参考文献
- Barrett, K.E., Barman, S.M., Boitano, S. and Brooks, H.L. (2019) Ganong's Review of Medical Physiology, 26th edition. New York: McGraw-Hill Education. → 消化管の生理学的機能、水分・電解質吸収、腸内細菌の代謝機能に関する包括的記述