小腸 Intestinum tenue

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J0692 (十二指腸と膵臓、および腹膜の覆い:前方からの図)

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J0693 (十二指腸の下行部の粘膜)

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J0694 (小腸(空腸)の部分は、一部が腸間膜の基部で切り開かれた図)

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J0695 (回腸の断面図:腸間膜の起源で切り開かれ、広げられました)

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J0696 (回腸の断面図:腸間膜の起源で切り開かれ、広げられました)

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J0697 (小腸壁の構造)

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J0698 (小腸の腸絨毛:上部の図)

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J0699 (小腸の腸絨毛:下部の図)

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J0718 (小腸:正面からの図)

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J0978 (交感神経の腹部神経叢:前面からの図)

1. 解剖学的構造と機能

小腸は、胃の幽門から始まり、回盲口で盲腸に開くまでの細長い管状臓器で、十二指腸(duodenum)、空腸(jejunum)、回腸(ileum)の3部から構成されています(Gray and Lewis, 2020)。成人の死体では、小腸の長さは約7mに達しますが、この長さは平滑筋層の張力に依存し、死後の筋弛緩により伸長します(Moore et al., 2022)。生体では筋緊張により平均5mとされています(Standring et al., 2021)。小腸は、食物の化学的消化と栄養素の吸収が行われる主要な部位であり、肝臓と膵臓が属腺として消化液の分泌に関与します(Boron and Boulpaep, 2020)。

2. 解剖学的区分

小腸は、解剖学的には腸間膜の有無により十二指腸と腸間膜小腸に区分されます(Moore et al., 2022)。腸間膜小腸はさらに空腸(近位2/5)と回腸(遠位3/5)に分けられますが、両者の境界は明瞭ではありません(Standring et al., 2021)。吸収上皮は内腔側に大小の突起構造を形成し、表面積は約200~250m²(テニスコート1面分)に達します(Ross and Pawlina, 2022)。最大の突起構造は粘膜下組織にまで達する輪状ヒダ(plicae circulares; Kerckring襞)で、十二指腸と空腸近位部で最も発達し、回腸遠位部では減少します(Netter, 2023)。

3. 微細構造

輪状ヒダよりも小さい突起構造として、粘膜上皮と粘膜固有層から構成される高さ約0.5~1.5mmの腸絨毛(villi intestinales)が小腸内面全体を覆っています(Ross and Pawlina, 2022)。腸絨毛の形態は部位により異なり、十二指腸では葉状または舌状を呈し、空腸では指状、回腸では円柱状または棍棒状を示します(Mescher, 2021)。各絨毛の粘膜固有層には1~2本の細動脈が侵入し、絨毛先端部で上皮直下の密な毛細血管網を形成した後、1本の小静脈となって還流します(Young et al., 2019)。この血管網は栄養素の吸収に重要な役割を果たします(Boron and Boulpaep, 2020)。

4. 免疫機能

各腸絨毛の中心軸には、中心乳び管(central lacteal)と呼ばれる盲端で始まる太いリンパ管が存在し、脂質の吸収と輸送に重要な役割を担っています(Young et al., 2019)。粘膜固有層には、リンパ球、形質細胞、マクロファージ(大食細胞)、肥満細胞などの免疫担当細胞が豊富に存在し、腸管関連リンパ組織(GALT: gut-associated lymphoid tissue)を構成します(Mescher, 2021)。特にリンパ球は集族増殖して孤立リンパ小節(noduli lymphoidei solitarii)を形成し、さらに複数の小節が集合して集合リンパ小節(noduli lymphoidei aggregati; Peyer板)を形成します(Standring et al., 2021)。集合リンパ小節は回腸、特に回腸末端部に多数分布し、粘膜筋板を貫いて粘膜下組織にも侵入する特徴があります(Mescher, 2021)。これらのリンパ組織は、腸管内の抗原に対する免疫応答において中心的な役割を果たします(Barret et al., 2019)。

5. 小腸の発生と先天性異常

小腸は発生学的には原始消化管の前腸、中腸、後腸に由来します(Sadler, 2020)。十二指腸は前腸と中腸の境界部から発生し、空腸と回腸は中腸に由来します(Schoenwolf et al., 2021)。胎生期第6週頃に中腸は急速に伸長し、腹腔が狭小であるため臍帯内へ脱出する生理的臍帯ヘルニアを形成します(Sadler, 2020)。第10週頃に反時計回りに270度回転しながら腹腔内に還納され、この過程の異常は様々な先天性疾患を引き起こします(Schoenwolf et al., 2021)。主な先天性異常として、十二指腸閉鎖症(duodenal atresia)、腸回転異常症(intestinal malrotation)、メッケル憩室(Meckel's diverticulum)などがあります(Sadler, 2020)。特にメッケル憩室は、卵黄腸管(vitellointestinal duct)の遺残により回腸末端から約60~100cm口側に生じる最も頻度の高い先天性消化管奇形であり、人口の約2%に認められます(Schoenwolf et al., 2021)。

6. 臨床的意義

小腸は、多様な消化器系疾患の主要な影響部位となります(Kumar et al., 2021)。クローン病(Crohn's disease)は小腸、特に回腸末端部に好発する慢性炎症性腸疾患であり、全層性の炎症と非乾酪性肉芽腫を特徴とします(Kumar et al., 2021)。セリアック病(celiac disease)は、グルテンに対する免疫学的反応により小腸絨毛が萎縮し、吸収不良症候群を呈する自己免疫性疾患です(Standring et al., 2021)。短腸症候群(short bowel syndrome)は、広範囲の小腸切除後に生じる吸収不良状態であり、栄養管理が重要となります(Boron and Boulpaep, 2020)。また、小腸は経口投与された薬物の主要な吸収部位であり、特に空腸と回腸近位部では広大な表面積と豊富な血流により高い吸収効率を示します(Moore et al., 2022)。小腸の機能障害は、栄養素やビタミンの吸収障害による栄養失調、電解質異常、貧血などの全身的影響をもたらし、さらに腸管関連リンパ組織の障害により免疫機能低下を引き起こす可能性があります(Kumar et al., 2021)。

参考文献