短頭(大腿二頭筋の)Caput breve (Musculus biceps femoris)

J0240 (右大腿骨と筋の起こる所と着く所:後方からの図)

J0503 (右大腿の筋:背面からの図)

J0505 (右大腿の筋:背面図)

J0506 (右大腿の筋:背面図)

J0508 (右膝の筋:腓側からの図)

J0600 (右大腿の動脈、背面図)

J0963 (右大腿の神経:後方からの図)
大腿二頭筋の短頭は、大腿二頭筋を構成する二つの筋頭のうちの一つであり、長頭とは異なる起始部、神経支配、機能的特性を持つ重要な筋です(Gray and Standring, 2016; Moore et al., 2018)。
解剖学的特徴
起始と停止
- 起始:大腿骨粗線の外側唇(linea aspera, labium laterale)の遠位半分から起始し、特に大腿骨の遠位1/2から2/3の部分に付着する(Netter, 2019; Standring, 2020)。この起始部は長頭の起始部(坐骨結節)とは明確に異なり、短頭は大腿骨から直接起始する唯一のハムストリング筋である
- 走行:筋線維は下方かつ外側方向に斜めに走行し、大腿の後外側区画を通過する。筋腹は比較的短く、遠位部で長頭の腱と合流する(Woodley and Mercer, 2005)
- 停止:腓骨頭(fibular head)の外側面に停止し、一部の線維は外側側副靱帯(lateral collateral ligament)および下腿筋膜にも付着する(Moore et al., 2018; Palastanga et al., 2012)。停止腱は長頭と共通の腱を形成し、膝関節の外側安定性に寄与する
神経支配と血液供給
- 神経支配:総腓骨神経(common fibular nerve, L5-S2)により支配される。これは短頭の重要な特徴であり、長頭が脛骨神経(tibial nerve)により支配されるのとは対照的である(Vleeming et al., 2012)。この神経支配の違いにより、腓骨神経損傷時には短頭のみが機能不全を起こす
- 血液供給:主に大腿深動脈(deep femoral artery)の穿通枝(perforating branches)から血液供給を受ける。特に第3穿通枝および第4穿通枝が短頭への主要な血液供給源となる(Taylor et al., 2003)。また、下殿動脈(inferior gluteal artery)の分枝からも一部供給を受ける
組織学的・生体力学的特性
- 筋線維タイプ:短頭は速筋線維(Type II線維、特にType IIa)の割合が比較的高く、約60-70%を占める(Garrett et al., 2017; Kellis and Baltzopoulos, 1997)。これにより、短頭は爆発的な力発揮や素早い動作に適している
- 筋束長と羽状角:短頭の筋束長(fascicle length)は約10-12cmで、長頭(約12-15cm)よりもやや短い。羽状角(pennation angle)は約15-20度である(Kellis et al., 2012)
- 生理学的横断面積(PCSA):短頭のPCSAは長頭よりも小さく、最大筋力発揮能力は長頭に比べて劣る(Ward et al., 2009)
機能
主な作用
- 膝関節の屈曲:短頭の主要な作用は膝関節の屈曲である。特に膝関節が屈曲位にある場合に効率的に機能する(Neumann, 2017)
- 屈曲トルクへの寄与:短頭は膝関節屈曲トルクの約20-30%を担当し、残りは長頭、半腱様筋、半膜様筋が分担する(Onishi et al., 2002)
- 膝関節屈曲位での下腿外旋:膝関節が屈曲している状態では、短頭は下腿の外旋にも寄与する。これは停止部が腓骨頭の外側にあることによる(Neumann, 2017; Kellis and Baltzopoulos, 1998)
生体力学的特性
- 一関節性筋:短頭は膝関節のみを跨ぐ一関節性の筋肉であり、股関節には作用しない。これは長頭(股関節と膝関節を跨ぐ二関節筋)との重要な相違点である(Lieber and Ward, 2011)
- 関節位置依存性:一関節性筋であるため、股関節の位置に関わらず、膝関節角度のみに依存して力を発揮する。これにより、股関節伸展位でも膝関節屈曲力を安定的に発揮できる
- 長頭との協調:長頭は股関節伸展位では伸張されて効率が低下するが、短頭は影響を受けないため、様々な姿勢での膝関節屈曲に重要な役割を果たす(Lieber and Ward, 2011; Schache et al., 2012)