棘上筋 Musculus supraspinatus
棘上筋は、解剖学的および臨床的に重要な肩関節の回旋筋腱板(ローテーターカフ)を構成する4つの筋のひとつです(Terry and Chopp, 2000)。
解剖学的特徴
- 起始:肩甲骨の棘上窩(肩甲骨頚の外側まで)と、それを覆う肩甲骨縁および肩甲棘に付着する筋膜から起始します。棘上窩の約2/3を占めています(Standring, 2020)。
- 走行:扁平な筋腹を形成し、外側に向かって集束しながら肩峰下滑液包の下を通過します(Moore et al., 2018)。
- 停止:上腕骨大結節の上面(上部小面)に停止します。その際、肩関節包と強く癒合し、関節包の補強に貢献します(Neumann, 2017)。
- 神経支配:肩甲上神経(C5-C6)により支配されます。この神経は肩甲切痕を通過するため、この部位での圧迫により障害を受けやすい特徴があります(Tubbs et al., 2016)。
- 血液供給:主に肩甲上動脈と肩甲下動脈からの分枝により栄養されます。棘上筋腱の近位部には「クリティカルゾーン」と呼ばれる低血流域が存在し、腱板断裂の好発部位となっています(Rothman and Parke, 2006)。
機能
- 主動作:上腕の外転(0〜15°)の開始相で主要な役割を果たします。それ以降の外転では三角筋と協調して作用します(Escamilla et al., 2009)。
- 安定化:上腕骨頭を関節窩に対して下方に引き下げ、肩関節の安定性を維持します(遠心性収縮による)(Ludewig and Reynolds, 2009)。
- 共同作用:肩関節の外旋にも関与し、棘下筋、小円筋とともに作用します(Reinold et al., 2007)。
臨床的意義
- 腱板断裂:棘上筋腱は腱板断裂の最も一般的な部位であり、特に反復性の頭上動作や加齢に関連して発生します(Yamamoto et al., 2010)。
- インピンジメント症候群:肩峰下で棘上筋腱が圧迫され、炎症や痛みを引き起こすことがあります(Neer, 1983)。
- 筋力評価:Jobe's testやEmpty can testにより棘上筋の機能を評価できます(肩関節90°外転、30°水平内転、内旋位で抵抗に対して腕を挙上)(Jobe and Jobe, 1983)。
- 筋萎縮:肩甲上神経損傷により棘上筋の萎縮が生じ、棘上窩の陥凹として視診で確認できることがあります(Warner et al., 1992)。
棘上筋は、その位置と機能から肩関節の動きと安定性において不可欠な役割を果たしており、整形外科領域で高い臨床的重要性を持っています(Matsen et al., 2009)。
参考文献
- Escamilla, R.F., Yamashiro, K., Paulos, L. and Andrews, J.R. (2009) 'Shoulder muscle activity and function in common shoulder rehabilitation exercises', Sports Medicine, 39(8), pp. 663-685.