橈骨 Radius
橈骨は、前腕の2本の骨のうち、外側(親指側)に位置する長管状の骨です。解剖学的および機能的に重要な特徴を持っています(Gray, 2020):
解剖学的特徴
- 大きさと形態:男性で約22cm、女性で約20cmの長さがあり、前腕の外側に位置しています(Moore et al., 2018)。
- 橈骨頭(Caput radii):上端に位置する円盤状の構造で、その中央の凹みは上腕骨小頭と関節を形成し、周囲は橈骨頭の関節円周面となり尺骨の橈骨切痕と関節します。
- 橈骨頸(Collum radii):頭部の下に位置する狭窄部で、骨折が生じやすい部位です(Netter, 2019)。
- 橈骨粗面(Tuberositas radii):頸部の下方、前内側に位置し、上腕二頭筋腱の付着部です。
- 橈骨体(Corpus radii):主に三角柱状で、橈側へ弓状に湾曲しており、前面・後面・外側面の3つの面と、前縁・後縁・内側縁の3つの縁を持ちます。
- 橈骨下端(Extremitas distalis radii):手根骨と関節する面があり、外側に茎状突起(Processus styloideus)を形成します。また、内側には尺骨切痕(Incisura ulnaris)があり、尺骨頭と関節します。
橈骨下端部は手根骨の舟状骨と月状骨との関節面を持ち、背側では伸筋腱の通る溝があります(Standring, 2016)。
機能的意義
- 回内・回外運動:橈骨は尺骨の周りを回転することで、前腕の回内(手のひらを下に向ける)と回外(手のひらを上に向ける)の動きを可能にします。これは日常生活での様々な手の動作に不可欠です(Kapandji, 2007)。
- 手関節の安定性:橈骨下端は手根骨との関節面積が大きく、手関節の安定性に重要な役割を果たしています。
- 筋肉の付着部:回内筋、回外筋、上腕二頭筋などの重要な筋肉の付着部となっています。
臨床的意義
- コーレス骨折(Colles' fracture):橈骨遠位端の背側転位を伴う骨折で、手をついた際に発生する典型的な骨折パターンです。高齢者に多く見られます(Jupiter, 2009)。
- スミス骨折(Smith's fracture):コーレス骨折の逆で、橈骨遠位端の掌側転位を伴う骨折です。
- 橈骨頭骨折:肘関節伸展位で手をついた際に発生することが多く、橈骨頭または頸部に生じます。
- ガレアッチ骨折(Galeazzi fracture):橈骨体の骨折と遠位橈尺関節の脱臼を伴う複合損傷です(Browner et al., 2015)。
橈骨の名称の由来: