大結節(上腕骨の)Tuberculum majus humeri
上腕骨の大結節は、肩関節の機能と安定性に重要な役割を果たす解剖学的構造です。以下にその解剖学的特徴と臨床的意義を詳述します(Gray and Carter, 2021; Netter, 2019):
解剖学的特徴
- 位置: 上腕骨頭の外側に位置する顕著な隆起で、解剖頸の外側に存在(Standring, 2020)
- 構造: 前方、中央、後方の三つの小面(前面、上面、後面)に分かれており、それぞれに特定の筋肉が付着(Moore et al., 2018)
- 筋肉付着部:
- 前面: 棘上筋(肩甲骨の棘上窩から起始)(Agur and Dalley, 2017)
- 上面: 棘下筋(肩甲骨の棘下窩から起始)(Agur and Dalley, 2017)
- 後面: 小円筋(肩甲骨外側縁から起始)(Agur and Dalley, 2017)
- 隣接構造: 内側に小結節があり、両結節間には結節間溝(上腕二頭筋長頭腱が通過)が存在(Drake et al., 2020)
機能的意義
- 回旋筋腱板の一部として肩関節の安定性に寄与(Wilk et al., 2009)
- 付着する筋肉による上腕骨の外旋(棘下筋、小円筋)と外転(棘上筋)の機能(Nordin and Frankel, 2012)
- 肩関節の可動域確保と関節包の緊張維持に貢献(Kapandji, 2019)
臨床的意義
- 病理:
- 大結節骨折: 転倒や直接的外傷による骨折で、特に高齢者や骨粗鬆症患者に多発(Court-Brown et al., 2015)
- 石灰性腱炎: 棘上筋腱付着部における石灰沈着による炎症性疾患(Bosworth, 1941)
- 回旋筋腱板断裂: 大結節付着部での腱断裂により上肢挙上困難となる(Gerber et al., 2000)
- 画像診断:
- X線像: 上腕骨頭外側の突出部として観察可能(Weissman and Sledge, 2005)
- MRI: 回旋筋腱板の評価や付着部病変の確認に有用(Fritz and Fishman, 2014)
- 超音波: 腱付着部の動的評価に適している(Jacobson, 2018)
- 治療的アプローチ:
- 大結節骨折: 転位の程度により保存的または観血的整復固定術を選択(Neer, 1970)
- 関節鏡手術: 腱板修復や大結節インピンジメント症候群の治療に用いられる(Burkhart et al., 2009)
この構造は肩関節機能の要となり、臨床的に頻繁に問題となる解剖学的ランドマークです。特に整形外科、リハビリテーション医学の分野で重要視されています。
参考文献
書籍
- Agur, A.M.R. and Dalley, A.F. (2017) Grant's Atlas of Anatomy, 14th ed. — 解剖学的図解と臨床応用の包括的な解説書
- Burkhart, S.S., et al. (2009) The Shoulder in Sports: The Evolution of Treatment Strategies. — 肩関節のスポーツ障害における治療戦略を詳述