垂直板(口蓋骨の)Lamina perpendicularis (Os palatinum)
口蓋骨の垂直板は、顔面頭蓋の深部に位置する薄い四角形の骨板であり、鼻腔外側壁の後部を構成する重要な解剖学的構造です。この骨板は解剖学的・臨床的に多くの重要な特徴を持ち、耳鼻咽喉科手術、顎顔面外科手術、神経外科手術において重要な指標となります(Standring, 2020; Netter, 2019)。

J0054 (上顎骨:内面からの図)

J0056 (右の口蓋骨:内側からの図)

J0057 (右側の口蓋骨:後方からの図)

J0089 (右の翼口蓋窩、外側からの図)

J0094 (頭蓋骨の前頭断、後方からの図)

J0096 (鼻腔の右側壁:左方からの図)

J0097 (左方からの鼻腔、骨性鼻中隔)
詳細な解剖学的特徴
全体構造と位置関係
- 垂直板は口蓋骨の後上方に位置する垂直に配置された骨板で、鼻腔外側壁の後部約1/4を形成します(Drake et al., 2019)。前方では上顎骨後壁と、後方では蝶形骨翼状突起内側板と接合し、鼻腔と翼口蓋窩を隔てる重要な境界を形成します。
- 骨板の厚さは部位により異なり、平均0.5〜1.5mmと非常に薄く、特に中央部では透明に近い薄さとなります。この構造的脆弱性により、外傷や手術操作により容易に骨折が生じる可能性があります(Lee et al., 2020)。
- 垂直板は上方で眼窩突起と蝶形骨突起に分岐し、これらが眼窩底および頭蓋底の一部を形成します。この三次元的な複雑な形態は、CT画像やMRI画像での正確な理解が臨床的に重要です(Simmen and Jones, 2018)。
内側面(鼻腔面)の詳細構造
- 内側面は鼻腔外側壁を形成し、前後方向に走る2本の明瞭な骨稜を有します。これらの骨稜は鼻甲介の付着部として機能し、鼻腔の気流動態に重要な役割を果たします(Stammberger and Kennedy, 2017)。
- 上部の篩骨稜(crista ethmoidalis):
- 中鼻甲介の後端が付着する重要な解剖学的指標です。篩骨稜は垂直板の上部約1/3の位置を水平方向に走行し、中鼻道と上鼻道の境界を形成します(Drake et al., 2019)。
- 内視鏡下鼻副鼻腔手術(ESS)において、篩骨稜は中鼻甲介の後端を同定するための重要な解剖学的指標となります。中鼻甲介の切除範囲を決定する際や、後部篩骨洞・蝶形骨洞へのアプローチ時に参照されます(Simmen and Jones, 2018)。
- 篩骨稜の高さと位置は個人差があり、術前のCT画像による評価が重要です。特に蝶形骨洞開窓術では、篩骨稜の位置が手術アプローチの計画に影響します(Bolger et al., 2019)。
- 下部の鼻甲介稜(crista conchalis):
- 下鼻甲介の後端が付着する部位で、篩骨稜よりも明瞭に発達しています。鼻甲介稜は垂直板の下部約1/3の位置を前後方向に走行します(Jang et al., 2022)。
- 下鼻甲介切除術(inferior turbinectomy)、下鼻甲介骨切り術、鼻腔形成術において、鼻甲介稜の正確な理解は手術の成否に直結します。特に下鼻甲介の後端処理において、この稜の同定が重要です(Kim et al., 2018)。
- 慢性肥厚性鼻炎の治療では、鼻甲介稜から下鼻甲介を剥離する際に、垂直板の薄い骨質を損傷しないよう注意が必要です(Jang et al., 2022)。
- 篩骨稜と鼻甲介稜の間の領域は、中鼻道の後部に相当し、この部位の粘膜病変は副鼻腔炎の診断や治療において重要な意味を持ちます(Stammberger and Kennedy, 2017)。
外側面(上顎面)の詳細構造
- 外側面は翼口蓋窩に面し、複数の重要な解剖学的関係を有します。この面は前後に走る2つの粗面により3つの領域に分割されます(Standring, 2020)。
- 前方の粗面(上顎粗面):上顎骨後壁と強固に結合し、上顎洞後壁の一部を形成します。上顎洞根治術や内視鏡的上顎洞手術において、この結合部が解剖学的指標となります(Lee et al., 2020)。
- 後方の粗面(翼状粗面):蝶形骨翼状突起内側板と接合し、翼口蓋窩の内側壁を形成します。翼口蓋窩へのアプローチや翼口蓋窩腫瘍の切除において、この接合部の理解が必要です(Cavallo et al., 2018)。
- 中央の平滑面:翼口蓋窩に直接面し、翼口蓋神経節や上顎神経の枝が走行する領域です。この部位への手術操作は、顔面痛や知覚異常のリスクを伴います(Malamed, 2019)。
上縁の詳細構造
- 上縁には蝶口蓋切痕(incisura sphenopalatina)という深い切れ込みがあり、これが蝶形骨体下面と接することで蝶口蓋孔(foramen sphenopalatinum)を形成します(Drake et al., 2019)。