鋤骨 Vomer
鋤骨は、頭蓋底の中央部に位置する単一の薄い骨で、鼻中隔の重要な構成要素として解剖学的および臨床的に極めて重要な構造です(Drake et al., 2020; Standring, 2021)。

J0044 (篩骨、垂直板:左方からの図)

J0051 (鋤骨:左方からの図)

J0052 (鋤骨:前面からの図)

J0094 (頭蓋骨の前頭断、後方からの図)

J0097 (左方からの鼻腔、骨性鼻中隔)

J0414 (右側の咀嚼筋、背側からやや内側からの図)

J1070 (粘膜なしの鼻中隔:左方からの図)
解剖学的特徴
形態学的特徴
鋤骨は、その名前の由来となった鋤(すき)の刃に似た特徴的な四辺形の薄い骨板で、厚さは約1〜2mmと非常に薄く、正中矢状面に位置して骨性鼻中隔の後下部を構成します(Standring, 2021)。この骨は単一の骨として存在し、左右対称な構造を持ちます。表面は滑らかで、鼻粘膜によって覆われており、鼻腔を左右に分割する重要な役割を果たしています(Netter, 2023)。
発生学的起源
鋤骨は膜性骨化(直接骨化)によって形成される骨であり、軟骨性骨化を経ません(Moore et al., 2019)。胎生期には左右の骨板として独立して発生し、生後数ヶ月から数年の間に正中線で融合して単一の骨となります。この発生過程の異常は、鼻中隔の構造異常や口蓋裂などの先天性疾患と関連することがあります(Moore et al., 2019)。
詳細な解剖学的関係
鋤骨は複数の周囲構造と複雑な関係を持っています:
- 上縁(superior border):上縁は深い溝状(groove)を呈し、篩骨垂直板(perpendicular plate of ethmoid bone)の下縁と鼻中隔軟骨(septal cartilage)の後縁を受け入れます。これらの構造と結合することで、完全な鼻中隔を形成し、鼻腔を左右に明確に分割します(Netter, 2023; Standring, 2021)。
- 後上縁(posterosuperior border):後上縁は左右に分かれて鋤骨翼(alae vomeris)を形成します。この翼状の突起は、蝶形骨体(body of sphenoid bone)の下面にある蝶形骨吻(rostrum sphenoidale)を左右から挟み込むように嵌合し、強固な連結を形成します。この関節は蝶形骨鋤骨縫合(sphenoidal-vomerine suture)と呼ばれます(Standring, 2021)。
- 下縁(inferior border):下縁は上顎骨(maxilla)の口蓋突起および口蓋骨(palatine bone)の水平板の正中部にある鼻稜(crista nasalis)の溝に深く嵌合し、しっかりと固定されています。この連結により、硬口蓋と鼻中隔の間に安定した構造的関係が確立されます(Standring, 2021; Drake et al., 2020)。
- 前縁(anterior border):前縁は鼻中隔軟骨と結合し、軟骨性鼻中隔から骨性鼻中隔への移行部を形成します(Netter, 2023)。
- 後下縁(posteroinferior border):後下縁は自由縁として存在し、後鼻孔(choanae)を左右に分ける境界となっています。この部分は鼻腔と鼻咽腔の接続部に位置し、呼吸気流の通過に重要な役割を果たします(Standring, 2021)。
微細構造
鋤骨は緻密質骨から構成される薄い骨板で、内部に海綿質はほとんど含まれません。骨表面には小孔が散在しており、これらは血管や神経の通路となっています(Standring, 2021)。
神経血管支配
血管支配
鋤骨およびそれを覆う鼻粘膜は、複数の動脈から豊富な血液供給を受けています(Drake et al., 2020):