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左右の総頚動脈の起始部は異なる。右総頚動脈は右の胸鎖関節の高さで腕頭動脈から、左総頚動脈は大動脈弓の最も高い位置で腕頭動脈に近接して出る。このため、左総頚動脈は右より4〜5cm長い。
総頚動脈は分枝せずに気管と喉頭の脇をほぼ真っ直ぐ上行し、甲状軟骨の上縁の高さで(頚の短い人ではやや上方で)鋭角に分岐する。この分岐は音叉状で、ほぼ同じ太さの外頚動脈と内頚動脈という2本の主枝となる。
総頚動脈は分岐前にほとんど枝を出さないか、出しても極めて微細なものであるため、全長にわたって太さがほぼ一定である。しかし、分岐部に接して内頚動脈にまで及ぶやや拡張した部位があり、これを内頚動脈洞(Sinus a. carotidis internae)という。この内頚動脈洞の壁は、中膜のすべての成分が全般的に減少しているため周囲より薄くなっている(Sunder-Plassmann, Z. Anat. Entw., 93. Bd., 1930)。一方、外弾性板は幅が広くなり、外膜が非常に強くなっている。ここには豊富な神経終末装置がある。この構造は、大動脈弓に減圧神経が侵入する部位以外では見られない。
[図637] 頚動脈糸球:60歳男性。クロム親和性細胞を染色。×500倍 (A. Kohn, Handbuch……Physiologie 1930)
[図638] クロム親和性細胞:新生児の骨盤部交感神経節の横断面。(A. Kohn, Handbuch……Physiologie 1930)
**局所解剖:**頚部下部では左右の総頚動脈は気管の幅程度の狭い間隔で並行するが、上方では喉頭と咽頭が介在するため間隔が広がる。つまり、この動脈は上行するにつれて互いに離れていく。後方は椎前筋膜に接し、前方では外側にある内頚静脈とともに中頚筋膜に覆われる。内側は縦中隔(Septum longitudinale、図512)によって頚部内臓と境される。迷走神経は総頚動脈と内頚静脈の間の後方にあり、それよりやや内側後方に交感神経幹がある。稀に迷走神経が総頚動脈と内頚静脈の前面にあることがあり、Adachiによると日本人ではその頻度がやや高いという。
総頚動脈の下部前方には鎖骨の胸骨縁(右では胸骨柄の上部も)、胸鎖乳突筋、胸骨舌骨筋、胸骨甲状筋がある。頚動脈の上部は胸鎖乳突筋の内側で、この筋の前縁と肩甲舌骨筋の上腹、および顎二腹筋の後腹に囲まれた頚動脈三角(Trigonum caroticum)内にある。この三角形の下角にあたるくぼみで頚動脈の拍動を容易に観察・触知できる。第6頚椎の肋横突起が突出しており(頚動脈結節)、ここで頚動脈を圧迫できる(RK510(椎骨前面の頚部筋と斜角筋群) )。舌下神経の下行枝は血管鞘の前面を下降し、頚神経叢の数枝とともに頚動脈の外側で係蹄を形成する。これを舌下神経係蹄(Ansa hypoglossi)という。
**神経:**交感神経、舌咽神経、迷走神経、舌下神経の下行枝による。外膜内に多数の小神経節がある。
**変異:**右総頚動脈が時に直接大動脈弓から出たり、左頚動脈と共通幹を形成したりする。鎖骨下動脈が大動脈弓から直接出て位置が変わっている場合、右総頚動脈が大動脈弓の最初の枝となることがある。腕頭動脈の長さにも変異があり、100例中12例でその分岐点が鎖骨の上または下にある。
左総頚動脈は右に比べて起始の変異が多く、多くの場合腕頭動脈から出る。右鎖骨下動脈の起始が異なる場合、左総頚動脈が右総頚動脈と共通幹から出ることがある。内臓逆位や右曲がりの大動脈弓では、左総頚動脈が左鎖骨下動脈とともに左腕頭動脈から出ることがある。
総頚動脈の分岐点は、頚の短い人では通常より上方にあることがある。しばしば舌骨の高さにあり、時にはさらに上方にあることもある。少数例で分岐点が甲状軟骨の中央やその下縁、さらには輪状軟骨の下縁まで下方に位置することがある。
稀に内頚動脈と外頚動脈が大動脈弓から直接出ることがある。また稀に総頚動脈が分岐せずに頭部に達し、外頚動脈の枝を直接出すことがある。内頚動脈が欠如する例も報告されている。
総頚動脈が枝を出すことは稀だが、その場合最も多いのは上甲状腺動脈である。また喉頭動脈や下甲状腺動脈、さらには椎骨動脈が総頚動脈から出る例も知られている。
頚動脈小体(頚動脈糸球)Glomus caroticum, Carotisdrüse