腰神経

腰神経は胸髄の下と仙髄の上の脊髄の両側から発生する5本の脊髄神経で、各腰椎の間の脊髄から発生し、椎間孔を通って走行します。これらの神経は下肢、臀部、腹部の一部に感覚と運動機能を提供します。また、腰神経の一部は大腿神経、閉鎖神経、腰仙骨神経幹へ分岐します。

日本人のからだ(熊木克治 2000)によると

下腹壁から下肢への移行部の神経

胴体から下肢への移行部分、つまり肋間神経から腰神経叢への変異について検討しました。腹壁は外腹斜筋(第1層)・内腹斜筋(第2層)・腹横筋(第3層)の3層の腹筋層で形成されています。肋間神経(脊髄神経前枝)は、内腹斜筋と腹横筋の間、つまり第2層と第3層の間を通り、側腹壁で外側皮枝を出し、前腹壁で腹直筋鞘に入るというのが一般的な経路です。腰神経叢の変異についての詳細な解剖学的研究や比較解剖学的研究が存在しますが、腹壁の最下部は、いわゆる腸骨下腹神経が分布する部位であり、この神経は変異が多く同定が困難な例が多いと言われています。

金沢大学と新潟大学の解剖学実習体を基に調査を行いました。神経の起始(根分節)、経過(腹壁での走行)、分布という三要素に注目しました。標準型では、Th 12 由来の肋間(肋下)神経は、腹壁に進入した後、すべての神経が終始第2層と第3層の間を走行し、外側皮枝を分岐した後、腹直筋を通過して前皮枝を分枝します。この前皮枝を、「深い前皮枝」と定めます。一方、L1由来の神経は、外側皮枝の存在が不定で、はじめ第2層と第3層の間を走行した後、上前腸骨棘のやや前方で外腹斜筋と内腹斜筋との間、つまり第1層と第2層の間に移行し、腹直筋鞘に入らず、浅鼠径輪の近くで外腹斜筋腱膜を通過して前皮枝を分岐します。これは下肢への移行型の前皮枝の走行で「浅い前皮枝」とします。

境界の分節が尾側(下方)へ移動している例や、L1由来の成分の一部が、「深い前皮枝」を含む標準型の走行をとること、そして「深い前皮枝」や「浅い前皮枝」の成分の中間に、「中間型の前皮枝」が存在することなど、さまざまな特徴が認められました。

一方、胴短群すなわち分節の頭側(上方)への移動についての特徴は、Th12の外側皮枝が外側皮枝の最下位で、L1には外側皮枝が出現しないこと、そして標準型の「深い前皮枝」、「中間型の前皮枝」、「浅い前皮枝」の3種類すべてが、少しずつ高い(頭側)分節に由来する方向に移動することがあげられます。

脊髄神経の尾側あるいは頭側への分節的変化(ずれ)が起こることで、特に下腹壁から下肢への移行部では、前皮枝系に標準型(深い)、中間型、下肢への移行型(浅い)という多様な型変化が起こります。これは、末梢神経の束形成様式に集束型(1本)から分散型(複数本)へという変動があることを説明できます。さらに、腰神経叢の全体的な考察を試みると、腸骨鼠径神経、陰部大腿神経、外側大腿皮神経、分岐神経あるいは大腿神経と閉鎖神経の構成分節などのいくつかの特徴的要素も、胴長群から胴短群への分節の変化(ずれ)と平行して、同じ方向に変化することが判明しました。

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図95 下腹壁から下肢への移行部(境界分節)の神経解析

図95 下腹壁から下肢への移行部(境界分節)の神経解析

Rcap: 深い前皮枝(黒色)。これは標準型の腹壁の神経で、始終第2から第3の腹筋層間(2-3)を走行し、腹直筋鞘に入り腹直筋を貫いて前皮枝を出す。

Rcas: 浅い前皮枝(白色)。下肢への移行型の神経は第2から第3の腹筋層間(2-3)から第1から第2の腹筋層間(1-2)へ移行し、浅層に出る。腹直筋鞘には入らず、外腹斜筋膜を貫いて前皮枝を出す。

Rcat: 中間型の前皮枝(点描)。これは「深い前皮枝」と「浅い前皮枝」の中間型の神経で、始終第2から第3の腹筋層間(2-3)を走行するが、腹直筋鞘には入らず、外腹斜筋腱膜を貫いて前皮枝を出す。

標準型の「深い前皮枝」と下肢への移行型の「浅い前皮枝」の境界分節がTh 12/L 1という標準群(A)に対比して、標準の体壁が長く境界分節が下方へずれている胴長群(B, C)と、標準の体壁が短く境界分節が上方へずれている胴短群(D, E)とが区別されます。