



脊髄円錐(Conus medullaris)は、成人において通常第1腰椎下縁から第2腰椎上縁の高さ(L1-L2レベル)に位置する脊髄の尾側終端部である(Standring, 2024)。この構造は脊髄本体から終糸(filum terminale)への移行部を形成し、円錐状の形態を呈することからその名称が付けられた(Gray and Williams, 2023)。脊髄円錐の長さは約3-5 cmであり、その基部から先端に向かって徐々に細くなる特徴的な形態を示す(Moore et al., 2023)。
脊髄円錐には第4-5腰髄節(L4-L5)、全仙髄節(S1-S5)、および尾髄節(Co1)が含まれており、これらの神経節から発する神経根は脊髄円錐の周囲を取り囲むように下行し、馬尾(cauda equina)を形成する(Netter, 2024)。脊髄円錐の位置には個人差があり、正常範囲として第12胸椎下縁から第3腰椎上縁までの変動が報告されている(Saifuddin et al., 1998)。この位置変動は、腰椎穿刺や硬膜外麻酔などの侵襲的処置を行う際に考慮すべき重要な解剖学的変異である(Drake et al., 2023)。
脊髄円錐の横断面では、灰白質が中央に位置し、その周囲を白質が取り囲む典型的な脊髄の構造を呈する(Standring, 2024)。しかし、脊髄の他の部位と比較して、脊髄円錐では灰白質の占める割合が相対的に大きく、特に前角細胞の集団が顕著である(Gray and Williams, 2023)。これは、下肢遠位部および骨盤内臓器への運動神経支配を担う神経細胞体が集中しているためである(Moore et al., 2023)。
脊髄円錐部の中心管(central canal)は、しばしば拡大を示し、終室(terminal ventricle)と呼ばれる小さな嚢状構造を形成することがある(Netter, 2024)。この終室は発生学的には神経管の尾側端の名残であり、成人では通常閉塞しているが、MRI検査において嚢胞性病変として誤認される場合があるため、その存在を認識しておくことが臨床的に重要である(Saifuddin et al., 1998)。
脊髄円錐は、脊髄硬膜、くも膜、軟膜の3層の髄膜によって保護されており、くも膜下腔内に存在する(Moore et al., 2023)。脊髄硬膜は通常第2仙椎レベル(S2)まで延びており、脊髄円錐の尾側約10-15 cmの位置で終止する(Standring, 2024)。この解剖学的関係は、腰椎穿刺の穿刺部位を決定する上で極めて重要である(Drake et al., 2023)。
脊髄円錐から連続する終糸は、内側終糸(filum terminale internum)と外側終糸(filum terminale externum)の2部分に区分される(Gray and Williams, 2023)。内側終糸は脊髄円錐から第2仙椎レベルの硬膜終止部まで延び、主に軟膜とグリア組織から構成される(Netter, 2024)。外側終糸は硬膜に覆われた部分であり、第2仙椎から尾骨後面まで延びて尾骨骨膜に固定される(Moore et al., 2023)。
馬尾は、腰髄下部から仙髄・尾髄に由来する神経根の集合であり、脊髄円錐の周囲を取り囲むように配置される(Standring, 2024)。各神経根は前根と後根から構成され、それぞれの脊髄神経節(後根神経節)を形成した後、椎間孔を通過して末梢に至る(Drake et al., 2023)。馬尾の神経根は、くも膜下腔内を比較的長い距離にわたって下行するため、髄膜炎や腫瘍性病変の影響を受けやすい解剖学的特徴を有する(Gray and Williams, 2023)。
脊髄円錐部の動脈血供給は、主に前脊髄動脈(anterior spinal artery)と一対の後脊髄動脈(posterior spinal arteries)によってなされる(Netter, 2024)。前脊髄動脈は脊髄前正中裂に沿って下行し、脊髄の前方約2/3を栄養する(Moore et al., 2023)。後脊髄動脈は後根進入部付近を下行し、脊髄後方約1/3および後根を栄養する(Standring, 2024)。
脊髄円錐レベルでは、これらの脊髄動脈は根動脈(radicular arteries)によって補強される(Drake et al., 2023)。特に重要な根動脈として、Adamkiewicz動脈(大根動脈、arteria radicularis magna)があり、これは通常T9-L2レベルで前脊髄動脈に合流し、下部胸髄から脊髄円錐にかけての主要な血液供給源となる(Gray and Williams, 2023)。Adamkiewicz動脈は通常左側から進入することが多いが、その起始レベルには個人差が大きく、胸腹部大動脈手術において損傷のリスクがある重要な血管である(Netter, 2024)。
脊髄円錐部の血管網は、脊髄の他の部位と比較して相対的に乏しく、いわゆる血管分水嶺(watershed zone)を形成するため、虚血性障害に対して脆弱性を示す(Saifuddin et al., 1998)。この解剖学的特徴は、大動脈疾患や低血圧状態において脊髄円錐部の梗塞が生じやすい要因となる(Moore et al., 2023)。
脊髄円錐からの静脈還流は、脊髄表面の静脈叢を経て内椎骨静脈叢(internal vertebral venous plexus)へと流入する(Standring, 2024)。内椎骨静脈叢は硬膜外腔に存在する豊富な静脈網であり、弁を持たないため双方向性の血流が可能である(Drake et al., 2023)。この特徴により、骨盤内や後腹膜の悪性腫瘍が静脈経路を介して脊椎や脊髄に転移しやすい解剖学的基盤となる(Gray and Williams, 2023)。