
J0777 (精巣鞘膜(臓側板)を開いた後の右の精巣と精巣上体:外側からの図)

J0778 (精巣鞘膜の壁側板を開いた後の右の精巣と精巣上体:内側からの図)



内精筋膜は、腹横筋膜(fascia transversalis)が鼠径管の深鼠径輪(deep inguinal ring)を通過する際に精索を取り囲むように伸長して形成される薄い結合組織層である(Moore et al., 2018; Standring, 2020)。この筋膜は精索の最内層を構成し、精巣挙筋(cremaster muscle)の深層で精索内容(精巣動静脈、精管、精巣神経叢、リンパ管など)を包み込む。内精筋膜は鼠径管内を下降し、陰嚢内では精巣鞘膜(tunica vaginalis testis)の壁側板の外側に位置する(Netter, 2019)。組織学的には疎性結合組織から成り、腹膜前脂肪組織を含む。精索の層構造において、内精筋膜は最内層、精巣挙筋と精巣挙筋筋膜(中精筋膜)が中間層、外精筋膜が最外層を形成する(Gray and Standring, 2020)。
胎生期に精巣が後腹膜腔から陰嚢へ下降する過程(testicular descent)において、精巣導帯(gubernaculum testis)に誘導されて腹膜鞘状突起(processus vaginalis)が形成される(Sadler, 2019)。この際、腹横筋膜が精索と共に引き伸ばされ、内精筋膜として精索の最内層を形成する。胎生7〜9ヶ月にかけて精巣が鼠径管を通過し陰嚢内に到達すると、内精筋膜は精索の恒久的な構成要素となる(Larsen, 2015)。
鼠径ヘルニア: 間接鼠径ヘルニア(indirect inguinal hernia)では、ヘルニア嚢が深鼠径輪から精索に沿って下降し、内精筋膜を含む精索の層で覆われる(Fitzgibbons and Forse, 2015)。ヘルニア修復術では、内精筋膜の解剖学的関係を理解し、ヘルニア嚢を精索構造から慎重に剥離する必要がある。Lichtenstein法やlaparoscopic hernia repairなどの術式において、内精筋膜の温存が精索への医原性損傷を避けるために重要である(Simons et al., 2018)。
精索水腫: 精索水腫(hydrocele of the spermatic cord)は、腹膜鞘状突起の閉鎖不全により精索内に液体が貯留する病態であり、内精筋膜の内側に嚢胞を形成する(Kass and Lundak, 2012)。超音波検査で内精筋膜と嚢胞壁との関係を評価することが診断に有用である。
精索静脈瘤: 精索静脈瘤(varicocele)の外科的治療では、精索内の静脈(蔓状静脈叢)を結紮する際に内精筋膜を切開し、精索動脈やリンパ管を温存する必要がある(Goldstein, 2011)。顕微鏡下精索静脈瘤低位結紮術(microsurgical subinguinal varicocelectomy)では、内精筋膜の正確な認識が合併症(精巣萎縮、精索水腫)の予防に不可欠である。
精巣腫瘍: 精巣腫瘍に対する高位精巣摘除術(radical orchiectomy)では、鼠径管アプローチで精索を深鼠径輪レベルで結紮切離するが、内精筋膜を含む精索全体を一塊として切除することで腫瘍の播種を防ぐ(Albers et al., 2015)。