筋層(直腸の)Tunica muscularis recti

J704.png

J0704 (腹膜被覆を除去した後の直腸:前方からの図)

J705.png

J0705 (直腸:前から見て開かれている図)

J707.png

J0707 (直腸肛門部の断面)

J796.png

J0796 (女性の骨盤臓器、左側の骨盤壁を除去:左側からの図)

1. 直腸筋層の基本構造

直腸の筋層は消化管壁の一般的な二層構造(内輪筋層と外縦筋層)を基本としていますが、解剖学的に重要な特徴があります(Standring, 2021)。内輪筋層(tunica muscularis circularis)は肛門管に向かって著明に肥厚し、平滑筋からなる内肛門括約筋(internal anal sphincter: IAS)を形成します(Netter, 2023; Moore et al., 2022)。この内肛門括約筋は不随意的に収縮し、糞便の漏出を防ぐ重要な役割を果たしています。静止時の肛門管圧の約70-80%は内肛門括約筋によって維持されており(Rao, 2021)、内肛門括約筋の機能不全は便失禁の主要な原因となります(Bharucha et al., 2022)。内輪筋層の厚さは直腸上部で約0.5-1.0mmですが、肛門管では約3-5mmまで肥厚します(Drake et al., 2020)。

2. 外縦筋層の走行と付着

外縦筋層(tunica muscularis longitudinalis)は結腸の縦走筋帯(taeniae coli)が直腸で融合して形成され、肛門管に向かって複雑な走行を示します(Standring, 2021)。外縦筋層は肛門管に向かって三方向に分かれます。前方の線維は恥骨直腸筋(musculus puborectalis)として恥骨に付着し、側方の線維は骨盤横筋膜(fascia pelvis parietalis)を貫いて肛門挙筋(musculus levator ani)と結合し、後方の線維は仙骨前面に付着します(Netter, 2023; Rosse and Gaddum-Rosse, 2020)。これらの縦走筋線維は最終的に肛門管の皮下を貫き、縦走筋間筋(longitudinal muscle of anal canal)として肛門周囲皮膚に終わります(Moore et al., 2022)。この解剖学的配置は、直腸肛門の支持機構において重要であり、直腸脱や直腸重積などの病態において臨床的意義があります(Raizada and Mittal, 2020; Bordeianou et al., 2023)。

3. 肛門括約筋の構造と機能

内肛門括約筋の外側には横紋筋からなる外肛門括約筋(external anal sphincter: EAS)が存在します(Standring, 2021)。この筋肉は随意的にコントロールでき、陰部神経(pudendal nerve)の下直腸枝によって支配されます(Netter, 2023)。外肛門括約筋は通常三つの部分に分けられます:皮下部(subcutaneous part)は肛門管の最遠位部を取り囲み、表層部(superficial part)は尾骨と肛門周囲皮膚を結ぶ楕円形の筋層を形成し、深部(deep part)は肛門挙筋と密接に関連し恥骨直腸筋と融合します(Keighley and Williams, 2019; Drake et al., 2020)。外肛門括約筋は肛門挙筋と協調して作用し、骨盤底の支持と排便の調節に不可欠です(Rao, 2021)。随意収縮により肛門管圧を一時的に2-3倍に増加させることが可能です(Bharucha et al., 2022)。括約筋の損傷(特に分娩時や肛門手術後)や神経支配の障害(糖尿病性神経障害や脊髄損傷など)は、便失禁や排便障害の原因となり得るため、直腸肛門手術において保存すべき重要な構造です(Bordeianou et al., 2021; Paquette et al., 2023)。

参考文献