水平部(十二指腸の)Pars horizontalis duodeni

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J0692 (十二指腸と膵臓、および腹膜の覆い:前方からの図)

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J0713 (肝臓と膵臓の排出路:正面からの図)

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J0714 (膵臓:右側、前面から見て引き伸ばされた図)

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J0720 (大腸と腸間膜の根:前方からの図)

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J0721 (小網:前方からの図)

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J0727 (男性の正中矢状断での腹膜の経過:赤色、やや模式的に示している)

解剖学的特徴

十二指腸の水平部(下部)は第3腰椎の高さで、膵頭の下縁に沿って左方へ約6〜8cm水平に走行します(Moore et al., 2018; Standring, 2020)。この部位は後腹膜に強固に固定されており、前方には上腸間膜動脈と上腸間膜静脈が交差し、後方には右大腰筋、下大静脈、腹部大動脈、左大腰筋が位置します(Gray and Standring, 2021; Netter, 2019)。

水平部の前面は小腸間膜根部と接し、上方には膵頭部が密接に隣接しています(Sinnatamby, 2011)。血管供給は主に下膵十二指腸動脈の枝と第一空腸動脈の枝から受けており、静脈は上腸間膜静脈へ流入します(Drake et al., 2020)。神経支配は腹腔神経叢からの交感神経線維と迷走神経からの副交感神経線維により制御されています(Hansen and Netter, 2019)。

水平部は十二指腸空腸曲(Treitz靭帯)で上行部(第4部)へと移行し、この部位で後腹膜固定から解放されて腹腔内臓器となります(Moore et al., 2018)。Treitz靭帯は平滑筋と結合組織からなり、横隔膜の右脚から起始して十二指腸空腸移行部を支持する重要な解剖学的構造です(Standring, 2020)。

臨床的意義

臨床的に水平部は上腸間膜動脈症候群(SMA症候群)の好発部位として重要です。この病態では上腸間膜動脈と腹部大動脈の間の角度が狭小化し(正常30〜60度が25度以下に)、十二指腸水平部が圧迫されて機械的閉塞を引き起こします(Welsch et al., 2020; Lippl et al., 2020)。典型的な症状には食後の嘔吐、上腹部膨満感、体重減少があり、診断には造影CT検査やバリウム透視検査が有用です(Sinnatamby, 2011)。

膵頭部癌や慢性膵炎では、水平部は膵病変による浸潤や圧迫を受けやすく、十二指腸狭窄や閉塞の原因となります(Netter, 2019; Drake et al., 2020)。また、腹部大動脈瘤の手術や後腹膜の外傷では、水平部の損傷リスクが高まります(Moore et al., 2018)。

内視鏡的逆行性胆管膵管造影(ERCP)では、水平部を通過して乳頭部(十二指腸大乳頭)に到達する必要があり、この部位での内視鏡の操作技術が手技の成否を左右します(Boron and Boulpaep, 2017; Hansen and Netter, 2019)。さらに、外傷性十二指腸損傷の約30%が水平部に発生し、鈍的腹部外傷で脊椎に押しつけられることによる破裂が主な機序です(Standring, 2020)。

参考文献