茎突咽頭筋 Musculus stylopharyngeus

J0077 (頭蓋骨、筋の起こる所と着く所:右方からの図)

J0081 (外頭蓋底:筋の起こる所と着く所を示す図)

J0564 (頚深部の動脈、右方からの図)

J0660 (舌筋:右側からの図)

J0661 (舌の深層筋:右側からの図)

J0680 (咽頭と喉頭の筋:後方から見た図)

J0683 (頭蓋骨の筋:後方からの図)

J0684 (咽頭の筋、右側からの図)
J0739 (内側の喉頭筋:右側からの図)

J0919 (右側の舌神経:右方からの図)

J0922 (右迷走神経の耳介枝:後方からの図)
茎突咽頭筋は、咽頭挙筋群に属する重要な筋肉で、嚥下機能に深く関与しています (Drake et al., 2020)。以下に、その詳細な解剖学的特徴と臨床的意義を示します:
1. 基本構造と走行
- 起始部:
- 茎状突起の内側基部(頭蓋底付近)から起始します (Standring, 2021)。
- 起始部は側頭骨茎状突起の近位1/3に位置し、茎突舌骨筋の内側に隣接します。
- 起始腱は短く、筋束はすぐに肉質となって下内側方向に走行します。
- 走行経路:
- 筋の形態:細長い円錐形の特徴的な筋束を形成し、長さは約10-12cmです。
- 経路:上咽頭収縮筋と中咽頭収縮筋の間を下行し、徐々に広がります。茎突舌骨靭帯の内側を通過します。
- 展開:咽頭側壁に到達すると扇状に広がり、分布します (Moore et al., 2019)。
- 解剖学的関係:舌咽神経は筋の外側を走行し、内頸動脈は筋の外側深部に位置します。
- 停止部:
- 主要停止部位:甲状軟骨後縁の外側面に強固に付着します。特に甲状軟骨上角の基部に集中します。
- 副次的停止:咽頭蓋の粘膜下組織に繊維が分布し、咽頭側索を形成します。
- 特徴的な構造:口蓋咽頭筋の線維と複雑に交錯し、咽頭縦走筋層を構成します (Netter, 2019)。
- 停止部の一部は輪状軟骨後面にも達し、下咽頭収縮筋の深層に停止します。
2. 神経支配と血管分布
- 神経支配:
- 舌咽神経(第IX脳神経)の筋枝による直接支配を受けます (Sinnatamby, 2018)。
- 舌咽神経は茎突咽頭筋の外側を走行した後、筋の深部に進入し、複数の筋枝を分布させます。
- 茎突咽頭筋は舌咽神経が支配する唯一の筋肉であり、舌咽神経麻痺の診断に重要な指標となります。
- 血液供給:
- 上行咽頭動脈(外頸動脈の枝)からの分枝により主に栄養されます。
- 副次的に顔面動脈の咽頭枝、舌動脈の背側枝からも血液供給を受けます。
- 静脈還流は咽頭静脈叢を経て内頸静脈に流入します。
- リンパ排液は上深頸リンパ節(特に顎二腹筋リンパ節)に向かいます。
3. 生理学的機能
茎突咽頭筋は嚥下運動において以下の重要な役割を果たします:
- 咽頭の挙上と側方拡張:
- 嚥下時に咽頭を上前方に挙上し、食塊の通過を容易にします。
- 咽頭腔の前後径と横径を拡張することで、咽頭腔容積を増大させます。
- 嚥下第二相(咽頭相)における咽頭腔の積極的拡大作用 (Matsuo and Palmer, 2015):
- 咽頭収縮筋の収縮に先立って咽頭を挙上・拡張し、食塊の受け入れ空間を確保します。
- 咽頭挙上により喉頭が上前方に移動し、喉頭蓋の後傾を促進して気道保護に寄与します。
- 声門上部の拡張補助:
- 喉頭入口部の拡張を補助し、気道確保と嚥下後の呼吸再開を円滑にします。
- 咽頭縦走筋としての協調運動:
- 口蓋咽頭筋とともに咽頭縦走筋層を形成し、咽頭の挙上運動を協調的に遂行します。
4. 臨床的意義
茎突咽頭筋は以下の臨床場面で重要な意義を持ちます:
- 嚥下障害の診断と評価:
- 嚥下機能評価における重要な指標筋となります (Cook et al., 2017)。
- 嚥下造影検査(VF)や嚥下内視鏡検査(VE)で咽頭挙上の程度を評価する際の解剖学的基準となります。
- 筋電図検査により茎突咽頭筋の活動パターンを評価し、嚥下障害の病態解明に役立てます。
- 舌咽神経障害:
- 舌咽神経障害時に機能不全を呈し、嚥下障害の原因となります。
- 茎突咽頭筋の麻痺により咽頭挙上不全が生じ、食塊の咽頭通過遅延や誤嚥のリスクが増大します。
- 舌咽神経痛の際、茎突咽頭筋領域に疼痛が放散することがあります。