烏口腕筋

烏口腕筋は以下の特徴を持つ筋です:

解剖学的変異として、筋皮神経に貫かれない例(約4〜6%)や、筋が2分する例が報告されています。また、原猿類では浅烏口腕筋と深烏口腕筋の2つの筋があり、ヒトの烏口腕筋はこれらの複合体と考えられています。

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J0163 (右肩甲骨、筋の起こる所と着く所:背面からの図)

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J0175 (右上腕骨とその筋の起こる所と着く所:前方からの図)

J0176 (右上腕骨と筋の起こる所と着く所:後方からの図)

日本人のからだ(本間敏彦 2000)によると

烏口腕筋は烏口突起から上腕二頭筋の短頭とともに始まり、上腕骨に停止する筋です。筋腹は通常筋皮神経に貫かれる特異な筋で、貫かれない例も存在します。小泉(1989)は240例中10例(4%)、古泉(1934)は100例中4例(4%)、石見(1950)は日本人胎児50例中3例(6%)に観察しています。

また、筋皮神経の貫通部位から筋が2分する傾向があります。完全な筋の分離は、古泉(1934)が100例中10例、石見(1950)が胎児50例中8例に認めました。異常筋として、烏口突起後縁から起始し、広背筋上に停止する副烏口腕筋(副烏啄腕筋M. coracobrachialis accessorius)が報告されています(古泉、1934)。

発生学的には、烏口腕筋は上腕の腹側筋群(屈筋)に属し、上腕二頭筋や上腕筋と同様に筋皮神経によって支配されています。ただし、この筋は肩関節でのみ働きます。烏口突起から上腕二頭筋短頭筋と共に始まり、上腕骨の内側面で小結節稜の遠位で停止します。上腕を垂直に下げた状態では、烏口腕筋は腋窩に隠れています。この筋は、上腕の神経血管幹を誘導するための筋として機能しています。

原猿などでは、浅・深烏口腕筋という2つの筋があり、両者の間を筋皮神経が通ります。支配神経の解析結果から、ヒトの烏口腕筋は原猿などに見られる上記の2つの筋の複合体と考えられます(小泉、1989)。