三角筋 Musculus deltoideus
三角筋は肩関節を覆う大きな筋肉で、肩の外形を形成する解剖学的に重要な構造です。肩甲骨と鎖骨から起始し、上腕骨に停止します(Gray, 2020)。その形状、機能、および臨床的意義は以下の通りです:
解剖学的構造
- 起始:
- 前部(鎖骨部):鎖骨の外側1/3(Standring, 2021)
- 中部(肩峰部):肩峰の外側縁
- 後部(肩甲棘部):肩甲棘の下縁
- 停止:上腕骨外側面の三角筋粗面(deltoid tuberosity)(Drake et al., 2019)
- 形状:展開すると逆三角形(ギリシャ文字デルタΔ)に類似し、これが名称の由来
- 構造:厚い多羽状筋で、筋線維の配列が複雑で多方向性(Moore et al., 2022)
- 神経支配:腋窩神経(腕神経叢の後束由来、C5-C6)
- 血液供給:胸肩峰動脈、後上腕回旋動脈、前上腕回旋動脈(Netter, 2019)
機能的役割
- 主な作用:
- 全体:上腕の外転(15°〜90°)(Neumann, 2017)
- 前部線維:上腕の前方挙上、内旋
- 中部線維:純粋な外転
- 後部線維:上腕の後方挙上、外旋
- 機能的特性:
- 棘上筋が最初の0°〜15°の外転を担当した後、三角筋が主導的役割を果たす(Kapandji, 2019)
- 回旋腱板筋群(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)と協調して上腕骨頭を関節窩に安定させる(Kisner and Colby, 2018)
臨床的意義
三角筋は次のような臨床的意義を持ちます(Magee, 2020):
- 三角筋萎縮:腋窩神経損傷(肩関節脱臼や上腕骨外科頸骨折に伴う)により生じ、特徴的な「平坦肩」外観を呈する
- インピンジメント症候群:三角筋下滑液包と肩峰下腔での炎症により、外転時痛が生じる(Brukner and Khan, 2021)
- 筋注部位:三角筋中部は筋肉注射の一般的な部位であるが、腋窩神経損傷のリスクがあるため注意が必要
- 肩関節拘縮:長期間の不動により三角筋の拘縮が生じ、可動域制限の原因となる(Levangie and Norkin, 2019)
- 電気生理学的評価:腋窩神経の機能評価において三角筋の筋電図検査が重要
三角筋は肩関節の動きと安定性に不可欠な筋肉であり、その機能障害は上肢の機能全体に大きな影響を与えます。リハビリテーションにおいても三角筋の強化と適切な機能回復は上肢機能改善の重要な要素となります(Kisner and Colby, 2018)。