腹直筋 Musculus rectus abdominis
腹直筋は、腹部前壁の中央を縦走する長い帯状の筋肉であり、体幹の動きや安定性、そして多くの臨床的状況において重要な役割を果たしています(Gray, 2020; Standring, 2021)。

J0216 (右の寛骨:筋の起こる所と着く所を示す前外側少し下方からの図)

J0395-0401 (筋の形状)

J0402 (右の腹直筋の動脈の分岐:人間の新生児の腹面図)

J0439 (右の内腹斜筋の腱が腹直筋鞘に移行する図)

J0440 (腹直筋:腹面図)

J0441 (弓状線より上部:腹壁の断面図)

J0442 (弓状線より尾側:腹壁を横断する図)

J0443 (腹筋(第3層):腹面図)

J0447 (男性の右側の鼡径管の背側壁:背側図)

J0573 (腹部前壁の動脈:背面図)

J0590 (男性右側の閉鎖動脈と下腹壁動脈:左側からの図)

J0591 (男性右側の閉鎖動脈(破格))

J0728 (男性の前腹壁(下半分):後方からの図)

J0953 (右側の肋間神経の経路:右側前方からの図)

J0959 (右大腿の皮神経:前面からの図)
解剖学的特徴
位置と構造
- 腹直筋は白線(linea alba)の両側に左右一対で配置され、腹直筋鞘(rectus sheath)という線維性の鞘に包まれています(Moore et al., 2018)。
- 各筋腹は通常3〜4本の腱画(tendinous inscriptions)によって区分されています。これらの腱画は筋肉を横断する線維性の帯で、筋肉の横断面に特徴的な「シックスパック」の外観を与えます(Netter, 2019)。
- 腱画は主に臍より上部に存在し、通常は第5肋軟骨、第7肋軟骨(剣状突起の高さ)、第9肋軟骨(臍の高さ)の位置に対応しています(Sinnatamby, 2018)。
- 筋肉の幅は上部で約3cm、臍の高さで最も広く約5-7cmになり、下部では再び狭くなります(Standring, 2021)。
起始と停止
- 起始:腹直筋は第5、第6、第7肋軟骨の前面と剣状突起(xiphoid process)から起始します。起始部は幅が狭く、下方に向かって広がっていきます(Standring, 2021)。
- 停止:恥骨結合(pubic symphysis)の上縁と恥骨結節(pubic tubercle)の間の恥骨上枝(superior pubic ramus)に腱性に移行して停止します。停止部は幅約2-3cmの短い腱を形成します(Moore et al., 2018)。
腹直筋鞘の構造
腹直筋鞘は、外腹斜筋、内腹斜筋、腹横筋の腱膜によって形成される線維性の鞘で、腹直筋を包んでいます。その構造は弓状線(arcuate line、Douglas線とも呼ばれる)を境に異なります(Ellis et al., 2019)。
- 弓状線より上方(臍より上):
- 前葉:外腹斜筋腱膜の全体と内腹斜筋腱膜の前葉が腹直筋の前面を覆います。
- 後葉:内腹斜筋腱膜の後葉と腹横筋腱膜が腹直筋の後面を覆います。
- 弓状線より下方(臍より下):
- 前葉:外腹斜筋腱膜、内腹斜筋腱膜、腹横筋腱膜のすべてが腹直筋の前面を通過します。
- 後葉:腱膜による後葉は存在せず、腹直筋の後面は横筋筋膜(transversalis fascia)と壁側腹膜のみで覆われます(Loukas et al., 2018)。
この解剖学的特徴は、弓状線より下方での腹壁の脆弱性を説明し、腹直筋鞘血腫や腹壁ヘルニアの好発部位となっています(Standring, 2021)。
神経支配
- 腹直筋は第7〜第12肋間神経(T7-T12)の前枝によって支配されます。これらの神経は腹直筋鞘の後面を走行し、筋肉の外側縁から侵入します(Drake et al., 2020)。
- さらに、腹直筋の最下部は腸骨下腹神経(iliohypogastric nerve、T12-L1由来)および腸骨鼠径神経(ilioinguinal nerve、L1由来)からも神経支配を受けます(Moore et al., 2018)。
- 神経分布は分節的で、各肋間神経は腹直筋の特定の高さの領域を支配します。この分節的神経支配により、部分的な神経損傷でも筋肉の一部の機能は保たれます(Standring, 2021)。
血液供給
腹直筋の血液供給は上下からの豊富な動脈系によって行われ、腹直筋の後面で重要な血管ネットワークを形成します(Agur & Dalley, 2021)。