腹直筋

腹直筋は腹部前壁の中央を上下に走る帯状の筋です。主に第5から第7肋骨の肋軟骨と剣状突起から始まり、恥骨結合と恥骨結節に停止します。この筋の主な機能は、腹部を圧縮して内臓を保護し、呼吸や体幹の屈曲に関与することです。腹直筋は白線の両側に位置し、複数の腱で区切られています。これにより、筋の形状と機能がさらに強調されます。

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J0395-0401 (筋の形状)

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J0402 (右の腹直筋の動脈の分岐:人間の新生児の腹面図)

日本人のからだ(堀口正治 2000)によると

腹直筋は帯状の筋肉で、白線の両側に上下に縦走し、腹直筋鞘で覆われています。主に第5から第7の肋軟骨と剣状突起の前面から始まり、下方に進み、恥骨結合と恥骨結節の間で恥骨上枝に腱性に移行して停止します(表33)。

腹直筋は腹部前壁の両側に縦に走る一対の筋肉で、白線の両側に位置し、複数の部分に分けられる腱で構成されています。内側の腱は恥骨結合から、外側の腱は恥骨稜から始まり、剣状突起の前面と第5、6、7肋骨の肋軟骨表面で終わります。

この筋肉の機能は腹部を圧縮して内臓を保護し、強い呼吸時に働き、骨盤と脊柱を屈曲させます。神経支配は下部6本の肋間神経の前枝、腸骨下腹神経、および腸骨鼠径神経で、血液供給は上下腹壁動脈の筋枝から行われます。

断面は楕円形で、終止腱から分岐した線維は正中線を越えて白線の尾側に延び、恥骨結合から陰茎(陰核)の背面に向かう提靱帯に結合します。腹直筋は仰向けから起き上がる動作やボートを漕ぐ際などに働きます。腹筋が発達している人では腱の位置が皮膚上から凹んで見えることがあります。

腹直筋には2-5個の腱画が存在し、3個または4個の腱画が存在する場合が多い(表34)。ごくまれな例として6個の腱画を有する筋、また腱画をまったく所有しない筋が報告されています(中山ら、1966)。

同一個体では、左右同数の腱画が観察されることが多く(66.0% - 喜多, 1931; 100.0% - 日比, 1932 a; 80.0% - 中村, 1935; 66.9% - 森田, 1947; 82.2% - 金野・輪島, 1955)、臍輪より下位に腱画がある例(46.0% - 喜多, 1931; 77.5% - 中村, 1935; 39.6% - 森田, 1947; 58.9% - 金野・輪島, 1955)では、大部分が1個の腱画であり、2個の腱画を有する例(3.3% - 金野・輪島, 1955)は稀です。

下等なサルでは10個の腱画が観察され、類人猿では4-6個に減少し、人間の腱画は更に減少しています(Ruge, 1892)。この腱画数の減少は筋の上端及び下端より発生するとされています。腱画の形状は表35に示すように様々な型を示し、その中でA型が最も多く(51.1%)、次いでC型、D型が多く観察されます。

腹直筋には、第6胸神経から第1腰神経の前枝が連続して分布し支配します(金野・輪島, 1955)。腹直筋の腱画によって分断される各筋部は固有の単一神経によって支配されるのではなく、複数の神経節によって支配されます。したがって、各筋部が1つの体節に相当するのではなく、複数の体節に由来すると考えられます。

各筋節に分布する神経節の数や配列は個体によって異なり、一様ではありません(金野・輪島, 1955)。しかし、腱画を基準にせず、全体の支配神経の分布を見れば、神経の分布領域は節性を保持しているとみなせます(坂本, 1989)。

腹直筋の上外側部に第5または第6胸神経前枝の外肋間筋枝(浅肋間神経:児玉, 1986)が分布する例(1.7%)や、第5胸神経の壁外枝(熊木ら, 1975,1979; 山田, 1984)が分布する例(3.4%)があることがあります。これらの形成機序については、前者は腹直筋上外側部への前肋上筋系の癒合、後者は腹直筋同部に対する外腹斜筋の一部の癒合が考えられます(児玉, 1986)。

表33 腹直筋の起始(%)