内肋間筋

日本人のからだ(宮内亮輔・長島聖司・小川皓一・坂本裕和 2000)によると

肋間筋は、筋束の方向の違いにより、外肋間筋と内肋間筋に区別されるとされていました(Holmes, 1878)。この視点は、B.N.A.(Basle Nomina Anatomica、1895年)およびI.N.A.(Jena Nomina Anatomica、1935年)の国際解剖学用語に引き継がれてきました。しかし、Eisler (1912)、Walmsley (1916)、Davies et al.(1932)らは、従来の内肋間筋の内部を肋間神経が走行していることを指摘し、内肋間筋を神経の位置関係から、さらに深部と浅部の2筋に区別することを提唱しました(表20)。新しい国際用語P.N.A.(Paris Nomina Anatomica、1955年)はこの見解を支持し、それまでの内肋間筋のうち、神経より深い部分を最内肋間筋として区別し、肋間筋が3層から構成されるとしたのです。

表20 肋間筋の分類と名称の変遷

表20 肋間筋の分類と名称の変遷

B.N.A.¹⁾ Eisler (1912) Davies et al. (1932) P.N.A.²⁾
外肋間筋 外肋間筋 外肋間筋 外肋間筋
内肋間筋 中間肋間筋 内肋間筋 内肋間筋
内肋間筋 肋内筋 最内肋間筋

¹⁾:B.N.A. (Basle Nomina Anatomica, 1895年) ²⁾:P.N.A. (Paris Nomina Anatomica, 1955年)

内肋間筋および最内肋間筋

内肋間筋は外肋間筋の内面に重なり、さらに最内肋間筋は内肋間筋の内面に重なり、肋間を埋めます。内肋間筋と最内肋間筋の筋線維の走行方向は完全に同一で、両筋の頭側部は肋間神経の主幹(Davies et al., 1932)によって分離されていますが、尾側では両筋は融合し、1枚の筋板を形成しています。

両筋の筋束は外肋間筋とは逆方向に走り、後胸部では下内側から上外側へ、側胸部では後下方から前上方へ、そして前胸部では下外側から上内側へ向かって走ります。腋窩線上における両筋筋束の走行方向と肋骨上縁との角度は、第1から第6肋間隙までは大きな変化を示さないものの、第6肋間隙から第9肋間隙までは漸次増大し、同線上における筋束走行方向と体軸との角度は第1から第7肋間隙まで漸次増大します(図25) (坂梨, 1958 b)。

最内肋間筋は上位及び下位肋間隙で欠如する例が多く、特に第1肋間隙ではほんの少数の例(5.6%, 2/36体側)しか存在しません(表22) (藤本,1961)。各肋間隙における本筋の存在範囲は後方の肋骨角付近から前方の肋硬骨・軟骨結合部までで、一般に前方では下位肋間隙の筋束が、上位肋間隙の筋束より内側まで達しています(藤本,1961)。

内肋間筋は第13肋骨を有する変異例(表22) を除けば、全検索例において全肋間隙に存在し、本筋の各肋間隙における存在範囲は後方では肋骨角付近で、通常は肋下筋を含めた広義の最内肋間筋より外側で始まり、前方では胸骨縁まで達します。胸骨に近い部分では筋束が特に肥厚し、縦方向に走り、Mm. intercartilagineiと称する筋束になります(藤本,1961)。

内・最内肋間筋は肋間神経の主幹および側副枝から起始する細枝によって支配されます(坂本,1989)。第1肋間隙の内肋間筋の椎骨側半は第2肋間神経主幹から起始する細枝が分布しています(坂本,1989)。佐藤進(1971)も同様の例(13.3%, 4/30側)を報告しています。肋間神経が内・最内肋間筋に挟まれている部分では、両筋の支配枝は肋間神経主幹から共通幹を形成して起始します(藤田,1963; 坂本,1989)。

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図25 成人の腋窩線上における内・最内肋間筋の筋束走行方向と肋骨上縁および体軸との角度(坂梨,1958b)