前鋸筋

前鋸筋は、以下のような特徴を持つ重要な筋肉です:

前鋸筋は胸郭の外側から後部を覆い、背側幹帯筋としても分類されることがあります。

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J0163 (右肩甲骨、筋の起こる所と着く所:背面からの図)

日本人のからだ(堀口正治 2000)によると

前鋸筋

前鋸筋は胸郭の外側から後部を覆う筋肉で、肩甲挙筋や菱形筋と共に背側幹帯筋に分類できます。この筋肉は主に第1から第8または第9肋骨から起始し、上部、中部、下部の筋束に分けられ、肩甲骨の上角、内側縁、下角に停止します。支配神経は主にC5からC7の長胸神経で、一部はC4からC8の神経が参加します。前鋸筋は浅胸筋にも分類されますが、支配神経から見ると、肩甲挙筋や菱形筋と共に背側幹帯筋にも分類できます。

起始する肋骨の上限は、多くの例で第1肋骨ですが、第2肋骨の場合も約5%存在します(村田ら、1968)。下限は第6から第12肋骨まで幅広く、Morimoto et al. (1992 b)によると、下限は通常第8肋骨(42%)または第9肋骨(41%)、次いで第10肋骨(13%)、第7肋骨(4%)および第11肋骨(1%)となります。第6または第12肋骨を下限とすることは極めてまれで、第5肋骨以下(88%)または第6肋骨以下(12%)の起始筋尖は、外腹斜筋の起始筋尖と相互に噛み合います(村田ら、1968)。

第1肋骨から起こる筋束と第2肋骨からの筋尖は、上部と呼ばれ、集束して上角に停止します。第2肋骨から起こる別の筋尖(第3筋尖)と第3肋骨からの筋束(第4筋尖)は中部と呼ばれ、逆に放散して内側縁のほぼ全長に停止します。第4肋骨以下からの筋束(第5筋尖以下)は下部と呼ばれ、再度集束して下角へ停止します。中部を作る筋束は第2肋骨からの第3筋尖だけで作られることもあり、逆に第4肋骨からの第5筋尖がこれに加わることもあります。第1肋骨からの起始尖は欠如することがあります。また、中部と下部の間には筋束の欠損部が見られることがあります。

解剖学書では、腕神経叢のC5, C6およびC7背側層から起こる1本の長胸神経が本筋の支配神経であるとされています。しかし実際には、C4からC8までの参加が認められ、C 5-7が75%、C 5-8が10%、C 5-6が8%、C 4-7が6%、C 6-7が1%であり、長胸神経と呼ばれる1本の神経のほかに、C5またはC4から起こって上部に分布する独立性の高い枝(肩甲背神経と共通幹を作ることが多い)が存在する場合が多い(約7割)(図3)(加藤・佐藤,1978)。

停止の異常として、下部の筋束のうち特にその最下位の筋束が肩甲骨下角に停止せず、胸腰筋膜に放散して終わる例がしばしば見られます(図4)。注意すべきは、この部分にはしばしば中位の肋間神経が分布し、その場合は後肋上筋と呼ばれます(Eisler,1912)。さらに、肋間神経が分布するのは、胸腰筋膜に放散する部分だけでなく、また、長胸神経支配の前鋸筋から容易に区別できる場合とそうでない場合があります(Eisler, 1912)。児玉(1986)はこれを深前鋸筋と呼び、17%に出現し、第2から第10肋間神経外肋間筋枝(浅肋間神経)の枝によって支配されることを報告しました。

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