大頬骨筋 Musculus zygomaticus major

J077.png

J0077 (頭蓋骨、筋の起こる所と着く所:右方からの図)

J079.png

J0079 (頭蓋骨、筋の起こる所と着く所を示す:前面からの図)

J081.png

J0081 (外頭蓋底:筋の起こる所と着く所を示す図)

J405.png

J0405 (頭部の浅層筋:少し右側からの図)

J406.png

J0406 (頭部浅層の筋:腹側図)

J409.png

J0409 (口領域の深層筋、少し右方からの図)

J671.png

J0671 (耳下腺、右側からの図)

J896.png

J0896 (左大脳半球外側面)

解剖学的特徴

起始と停止

大頬骨筋は頬骨弓の外側面、特に頬骨の側頭突起付近から起始します。筋束は内側下方に向かって斜めに走行し、口角の外側で口輪筋(Musculus orbicularis oris)の深層に停止するとともに、上唇の皮膚にも付着します(Netter, 2018; Standring, 2020)。この走行により、筋肉は約45度の角度で口角を上外側に牽引する解剖学的配置となっています(Gray and Carter, 2021)。

神経支配

大頬骨筋は顔面神経(第VII脳神経)の頬骨枝(Rami zygomatici)および頬筋枝(Rami buccales)によって支配されています(Standring, 2020)。顔面神経は耳下腺実質内を通過した後、放射状に分枝して表情筋群を支配しますが、大頬骨筋への神経枝は通常、耳下腺前縁から約2〜3cm前方で筋肉の深面に進入します(Marieb and Hoehn, 2019)。この神経走行の理解は、顔面神経麻痺の診断や顔面手術における神経損傷の回避に重要です。

血管供給

大頬骨筋への動脈血供給は主に顔面動脈(Arteria facialis)の枝である頬筋動脈(Arteria buccalis)と、眼窩下動脈(Arteria infraorbitalis)の枝から行われます。静脈還流は顔面静脈系を介して行われます(Gray and Carter, 2021)。この豊富な血管供給により、筋肉の機能維持と創傷治癒が支持されています。

筋肉の構造と組織学

大頬骨筋は骨格筋(横紋筋)であり、筋線維は主にタイプII(速筋)線維で構成されています。これにより、笑顔などの迅速な表情変化に対応できます。筋線維束は比較的薄く、周囲の脂肪組織や皮膚と密接に関連しています(Standring, 2020)。

解剖学的変異

大頬骨筋には顕著な個人差が存在します。約80%の個体では単一の筋束として存在しますが、10〜20%では筋束が二分または三分する変異(二頭型または三頭型)が認められます(Pessa et al., 1998)。また、約5%の症例では筋肉が欠損または著しく発育不全であることが報告されています(Farahvash et al., 2010)。人種差も報告されており、アジア系集団では欧米系集団と比較して筋束がやや短く、停止部がより外側に位置する傾向があります。

さらに、小頬骨筋(Musculus zygomaticus minor)との関係も重要です。両筋肉は起始部で融合していることがあり、約15%の症例では明確な区別が困難です(Gray and Carter, 2021)。

周辺構造との関係

大頬骨筋は表層から深層に向かって、皮膚、皮下脂肪組織、表在性筋膜系(SMAS: Superficial Musculoaponeurotic System)、そして筋肉自体という層構造の中に位置します。深層には頬筋(Musculus buccinator)や上唇挙筋群が存在します。また、顔面動静脈や顔面神経の枝が筋肉の周囲を走行しており、外科的操作時には注意が必要です(Netter, 2018)。

機能と生体力学

主要機能

大頬骨筋の主要機能は口角を上外側に引き上げることです。この動作により、笑顔(特に歯を見せる笑顔、デュシェンヌ・スマイル)が形成されます(Marieb and Hoehn, 2019)。口角の挙上角度は通常15〜20度程度であり、笑顔の強度によって変化します。

補助的機能として、上唇の外側部を持ち上げる作用があり、これにより鼻唇溝(nasolabial fold)の深さが変化します。また、頬部の皮膚を緊張させることで、顔面の輪郭形成にも寄与しています。