肩関節 Articulatio humeri; Glenohumeral joint
肩関節(関節窩上腕関節)は、肩甲骨の関節窩と上腕骨頭との間に形成される典型的な球関節(球窩関節)であり、人体の関節の中で最大の可動域を有します(Standring, 2020)。

J0310 (右肩関節:前方からの図)

J0311 (右肩関節:前方からの図)

J0312 (右肩関節:後方からの図)

J0313 (右肩関節:後方から前面断図)
解剖学的構造
1. 関節面の構成
- 上腕骨頭(caput humeri):半球状の関節面を形成し、関節軟骨で覆われています。上腕骨頭は内側・上方・後方を向いており、骨幹との間に約130度の頸体角(cervico-diaphyseal angle)を形成します(Netter, 2018)。
- 肩甲骨関節窩(cavitas glenoidalis scapulae):浅い梨形または卵円形の窪みで、上腕骨頭の関節面の約1/4〜1/3の面積しかありません。この不適合性により、大きな可動域が可能となる一方、関節の安定性は低下しています(金子ら, 2019)。
- 関節唇(labrum glenoidale):線維軟骨性の環状構造物で、関節窩の周縁に付着し、関節窩を深くすることで接触面積を拡大し、関節の適合性を改善します。上腕二頭筋長頭腱は関節唇の上部に付着します(Lippitt & Matsen, 1993)。
2. 関節包(capsula articularis)
- 関節包は薄く弛緩しており、広い可動域を許容します。肩甲骨側では関節窩の周縁および関節唇に付着し、上腕骨側では解剖頸付近に付着します(Standring, 2020)。
- 関節包の下方部分は特に弛緩しており、外転時に折りたたまれます(腋窩陥凹、recessus axillaris)(Netter, 2018)。
- 関節包は上腕二頭筋長頭腱の腱鞘として結節間溝まで延長しています(金子ら, 2019)。
3. 靱帯による補強
- 関節上腕靱帯(ligamenta glenohumeralia):関節包の前面を補強する3つの線維束からなります(Turkel et al., 1981):
- 上関節上腕靱帯(ligamentum glenohumerale superius):関節窩上部から上腕骨小結節に走行
- 中関節上腕靱帯(ligamentum glenohumerale medium):関節窩前縁から小結節に走行
- 下関節上腕靱帯(ligamentum glenohumerale inferius):最も強靭で、関節窩下部から上腕骨頸部に走行し、外転・外旋時の前方脱臼を防ぎます
- 烏口上腕靱帯(ligamentum coracohumerale):烏口突起の外側縁から上腕骨の大結節・小結節に扇状に広がり、上方と前方の安定性に寄与します(Neer et al., 1992)。
- 上腕横靱帯(ligamentum transversum humeri):大結節と小結節の間に架橋し、上腕二頭筋長頭腱を結節間溝内に保持します(Standring, 2020)。
4. 回旋筋腱板(rotator cuff)による動的安定化
- 棘上筋(supraspinatus)、棘下筋(infraspinatus)、小円筋(teres minor)、肩甲下筋(subscapularis)の4つの筋の腱が関節包に癒合し、上腕骨頭を関節窩に押しつけることで動的な安定性を提供します(Burkhart et al., 1993)。
- これらの筋腱は関節包を緊張させ、関節包の挟み込み(impingement)を防ぎます(Neer, 1983)。
肩甲骨面(scapular plane)